2017年8月30日水曜日

たまむず本 第二回 『世界の駄っ作機』



飛行機マニアの軍事評論家の趣味全開
岡部ださく『世界の駄っ作機』シリーズ 大日本絵画
 
主な成分:航空機 ミリタリー 失敗学
 
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 世の中には、普通に知られている以上に、さまざまな飛行機がある。
 
 旅客機に、ヘリコプターに、たまに自衛隊の戦闘機。空を見上げたとき、飛行機にあまり興味のない人は、ざっとこのぐらいの区別しか、つかないのではないだろうか?
 
 ところが、飛行機というのは、もっといろいろたくさん種類があるのだ。
 
 旅客機と一口に言っても、ボーイングとエアバスがあるし、ヘリコプターも、ものすごい種類がある。たとえば、ドラマで話題になった「ドクターヘリ」は、アメリカ製、ヨーロッパ製、日本製がある(ドラマで使われているのはアメリカ製)。

 今使われている飛行機なりヘリコプターは、ライトフライヤー以降連綿と続いた飛行機の「進化」の結果なんだけど、中には当然、進化の袋小路に入った機体もあったわけだ。

『世界の駄っ作機』は、そういう進化の袋小路に入った飛行機の中で、とくに問題のあった飛行機を、取りあげている。


駄っ作機の定義

一言で「問題」と言っても、いろいろある。性能が悪い、性能はいいけど値段が高い、性能も値段も妥当だけどトラブルが多い、そもそも離陸できないetc・・・
 


 例えば、日本に昔「紫雲(しうん)」という飛行機があった。「艦これ」にも出てくるから、割と知名度はあるほうだ。

 この飛行機、簡単に説明すると、飛ぶときの空気抵抗を減らすため着水用の浮き舟を捨ててあとは胴体着水するっていうコンセプトだ。
 
 もう一つ、「デファイアント」というイギリスの戦闘機がある。コクピットの後ろに大きな銃座を積んでいて速度が遅いうえ、前に向けて撃てる機関銃を積んでいなかったため正面から攻撃されて撃墜されるって飛行機だ。

 こうゆう飛行機は、世間一般では認知されず、マニアにも見向きもされなかったりするものだ。そりゃみんな、ゼロ戦とかF-15とかの方が好きだもんな。

 しかし、『世界の駄っ作機』シリーズは、こういった無名でかっこ悪く欠陥品でさえあることもある飛行機を、延々と取り上げている。それも、20年にわたって。


●『世界の駄っ作機』概要


『モデルグラフィックス』紙っていう老舗の模型雑誌があるんだけど、『世界の駄っ作機』は、そこに連載されたコラムを、まとめたものだ。

 コラムの連載開始は1995年。『モデルグラフィックス』は月刊誌だから、毎月だいたい一機ずつ、飛行機を紹介していった計算になる。単行本の巻数は2017年8月で8巻になった。

 著者は軍事評論家で、深夜のフジテレビのニュースとかで解説をしている。

 軍事評論家の本なんて、こむずかしいイメージがあるかもしれないが、この本はそんなことはない。軽妙な語り口で、著者のイラストつき(ココ重要)で、飛行機を紹介していっている。




●失敗学としての側面


「失敗学」によれば、失敗の定義は大きく3つにわけられる。


  • 織り込み済みの失敗。ある程度の損害やデメリットは承知の上での失敗。
  • 結果としての失敗。果敢なトライアルの結果としての失敗。
  • 回避可能であった失敗。ヒューマンエラーでの失敗。


 歴史上の飛行機のなかで、失敗したいと思って失敗した飛行機はほとんどない(まったくないとは言っていない)。

 例えば紫雲の場合、海軍から「戦闘機より速い水上機を作れ」という要求があった。水上機というのは、水面に着水するため胴体から浮き舟を吊るしているから、そんなものがない戦闘機より速く飛ぶのは困難なのだが。

 紫雲の場合、諸悪の根源である浮き舟をいざとなったら投棄して、さらに一つのエンジンを二つのプロペラで動かす二重反転プロペラっていう機構を採用して要求に応えようとしたのだけれども、結局うまくいかなかった。トライアルの結果としての失敗だな。



 デファイアントの場合、回避可能であった失敗だろう。

 第二次世界大戦で運用されたデファイアントのコンセプトは、第一次世界大戦までさかのぼる。当時、パイロットとは別に機関銃を操作するガンナーを乗せた二人乗り戦闘機が、爆撃機の撃墜に戦果を挙げて、「こりゃ名案だ」ってなった。

 ところが、第一次世界大戦で使われた爆撃機というのは、時速100キロをようやく超える速度でしか飛べなかった。これなら性能のいい飛行船のほうがよっぽど速くて、事実、空襲に飛行船が使われるケースがあった。
 
 デファイアントが参戦した第二次世界大戦時、技術の進歩で爆撃機の速度は時速400キロを越えていた。当然デファイアントもそのぐらいのスピードでは飛べるんだけど、そうなると400キロvs400キロの飛行機が空中を入り乱れて戦うことになり、そんな中を目視で(しかも手動で)機関銃で狙いをつけて撃つなんて、とてもじゃないけどできなくなっていた。結論を言うと、この飛行機の開発を決定した空軍の上層部が、いろんな意味で速さについていけてなかったんだな。

●この本を読む意義


 どっかのレビューで「飛行機の初心者が読む本じゃない」的なことが書いてあったけど、確かにそういう本とは言える。
 
 キャノピーとか、エルロンとか、可変ピッチプロペラとか、飛行機の基本的なパーツの名前と役割は知っておいたほうがいいし、あと、高校の世界史A程度の知識(とくに欧米近代)があったほうが読みやすい。
 
 模型製作の資料になるか? と問われても、はっきりとならないと答えられる。プラモデルになるようなメジャーでかっこいい飛行機は、ほぼ扱われていない。

 じゃあ、この本は、どういう人に薦められるか?



 それは、本当に、飛行機が好きな人だろう。


 
 飛行機の形や単純な性能だけでなく、その開発過程、時代背景、技術史的な意味を、全部をひっくるめて楽しめる人には、全力でおススメできる。
 
 この記事の一番上の画像(本の表紙と裏表紙)を見て、「おや、変な形のホーカー・ハリケーンとBf109がいるな」と思ったそこのあなた、ようこそ駄っ作機の世界へ。表紙のイギリス機は、実はトーネードという名前なのです。「は? トーネードって別の飛行機じゃん!」「真相を知りたければ、本を今すぐ買うのだ!」


 2017年8月の時点で8巻が発売されている。何巻から買っても楽しめるから、表紙を見て、気に入った飛行機のやつを買おう。もちろん表紙も、みんな粒ぞろいの駄っ作機だ。
 
 もちろん一巻(増補改訂版あり)から買ってもいい。一巻の巻末では著者と宮崎駿が対談してるぞ(よし、これで購入者数アップだ)。


各章の最後には「航空用語の基礎知識」のコラムがある



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