2021年1月21日木曜日

レビュー『涼宮ハルヒの直観』角川スニーカー文庫


2000年代前半に、一世を風靡した「涼宮ハルヒ」シリーズ。

その新刊『涼宮ハルヒの直観』(以下「直観」)のレビュー。

 

 目次

●前はどんな話だっけ?
●また新キャラが出てきたか・・・
●趣味を書くのはよいことだが・・・
●結局おもしろかったのか?

 


●前はどんな話だっけ?

「直観」の致命的な問題点は、小説の文章や表現や技法にあるわけではない。

前巻からあまりにも時がたちすぎて、前にどんな話をしていたか忘れてしまったことだろう。

ラグはおよそ、9年。小学生が大学生になるほどだ。

 

(単行本となった小説は全部読んでいる)が覚えているのは、なにやらキョンの幼馴染っぽいのが出てきて、そいつは叙述(じょじゅつ)トリックで男性に見せかけているけど実は女性で、しかも物語が二つの平行世界の視点で進む(ご丁寧なことに、段落を下げることによって、世界が変わったことが読者に一目瞭然となっていた)

なにぶん9年前のことゆえ覚え違いがあるだろうが、だいたいこんな感じであった。

 

ただまあ、「直観」は前の巻を覚えていなくても楽しめる。

ハルヒたちの日常のエピソードの、短編集だからだ。

 

 

●また新キャラが出てきたか・・・

 

▲思えば、挿し絵の絵柄も変わったものだ。初期の頃に比べて、トーンを貼るようになった。

 

彼女。

以前の巻にも出てきたみたいなんだけど、覚えてないし今回から名前がついたので、実質「直観」からの新キャラと言って差し支えない。

 

ミステリ研の部員で、交換留学生である。

 

涼宮ハルヒの世界観的に、「本当にこの世界内での留学生ですか?」と疑いたくなるが、今のところ彼女が、未来人、宇宙人に続く「異世界人枠」を占める気配はない。

 

おそらく、後述のミステリ的な話を書くための導入キャラだろう。

 

最初に気になった点といえば、彼女の呼び方がTであったことだ。

俺は真っ先に、作者の谷川流を思い描いた。

何をバカな、とお思いかもしれないが、ミステリで、作者その人が主人公で謎を追い詰めるってのは相当数あるので、可能性は絶無ではない。

 

ま、まさか作者ご自身が女体化して参戦を!?

 

と本気で考えていたぞ。


 

●趣味を書くのはよいことだが・・・

あくまで持論なんだけど、作家は、読者におもねることなく、ある程度は好きなものを書いていいと思っている。

無理して書いた文章より、好きなことを饒舌に書いてくれた文章のほうが、読んでいておもしろいからだ。

 

しかし、いささか趣味を押し出しすぎじゃないですかね?

 

作中で引用されている書物を上げる。

 

『古今著聞集』

Xの悲劇』

『シャム双子の秘密』

『ニッポン硬貨の謎』

『最後から二番目の真実』

『法月綸太郎ミステリー塾 海外編 複雑な芸術作品』

『江神二郎の洞察』

『記録の中の殺人』

 

などなど・・・

 

少なくとも、ライトノベルで出すには、ある程度勇気がいるチョイスだ。

学校の古典で扱われる(こともある)『古今著聞集』はともかくとして、あとは本格ミステリ系のそれだ。

ほぼまちがいなく、今の中高生の読者には「?」だろうし、だいたい、ハルヒが続々と刊行されていた2000年代でさえ、本格ミステリはブームが一段落して久しかったのだ(俺はそれなりに本を読むが、本格ミステリは両手で間に合う数しか読んでいない)

 

あらたに書き下ろされた話(文量にして『涼宮ハルヒの直感』の6割近くを占める)が、その本格ミステリ風の話になっている。

もしかしたら、編集者に「書けないようなら、好きなことを書いたらいい」みたいなアドバイスをもらったのかもしれない。

ただ、この書き方は新作が出やすくなる一方、読者を獲得しにくいだろう。

 

40,50代 ミステリは読むけど「涼宮ハルヒ」は読まない

20,30代 「涼宮ハルヒ」は読んでいたけど、本格ミステリは読まない

 


●結局おもしろかったのか?

「直観」は三つの説話からなっているけど、前二つはおもしろいと言っておく。

とくに二つ目の「ハルヒが荒唐無稽な七不思議を生み出す前に先手を打って七不思議を考えよう」は、楽しめた。俺は小坊や中坊のころ、通っている学校に七不思議をつけるとしたらなにがいいか? をしばし考えたが、ほかの人にもそういう経験はあるのではないか?

思うに、作者はいい意味で学生の心を持っているのだろう。

 

三つめの、本格ミステリ風のやつは、俺には判断がつかない。

トリックは個人的には斬新の塊のように思えたが、たぶん、ミステリでは似たようなものがいくつかあるのだろう。

おそらく、推理小説にしばしばある「読者への挑戦状」と「後期クイーン問題」へのオマージュだと思われる。

単語だけ知っていた「後期クイーン問題」について調べたのだが、「へー」という感想しか出てこなかった。

例えるなら、

 

「イギリスの産業革命を生み出したのは貴族かそれともヨーマン(自由農民)か?」

とか

「口径7.62ミリ以上のアサルトライフルはバトルライフルと呼ぶべきだ」

 

の議論を聞いたときの気分に似ている。

(ちなみに、産業革命に関しては貴族とヨーマン双方の相乗効果、が実りの多い答えだと思うし、バトルライフルという呼称は現場(少なくとも自衛隊)では使われていない)

 

他、まとまった量が出てくる推理小説ネタに関しても、古泉くんが解説してくれるのだが…

なんていうか、古代ギリシア喜劇を読んでいるとき「ここが笑いどころだよ」って注釈をされているのと同じ感覚になった。関心はするが、おもしろいかどうかは別問題である。


だから、3話目に関しては、

カレーと思って食ったらハヤシライスで、そのハヤシライスはビーフストロガノフと呼ぶのが正解

と言われた感じがする。舌はおいしいと言っているが、胃袋は消化不良を起こしている… うまい例えが思いつかない。


 急ぎつけ加えておくと、ミステリに習熟し、楽しむ素養のある人間には、第3話は十分おもしろいと思われる。

自分は、次々と送られてくる出題メールを「なんらかの事情でハルヒを部室に足止めしておくための、古泉あたりの作戦」と考えていたため、そもそもミステリとして読んでいなかった。

「犯人の名前を言い当ててくだされ」

と問われて初めて「これミステリか?」と気がついた。そして、ある小道具の存在とその位置以外、なに一つ謎が解けなかった。


※ ※ ※


一つ言えるのは「直観」では物語は進展していないということだ。

 

「操り主」である統合思念体から離れつつある長門も、明らかに裏切るフラグを立てている古泉も、平穏無事に過ごしている。キョンへの淡い思いが悲恋で終わることがほぼ確定している朝比奈さんも、特に変わりない。

物語の進展を、多少なりとも期待したので、そこは残念だった面ではある。


 

ただ、自分個人としては、このままミステリ路線に変更するのもそれはそれでいいとは考える。

 

これを機に、ミステリも読もうと思えるからな。

 

※ ※ ※

 

最後に。

作者様はあとがきで、遅筆を恥じているようだが、今残っているハルヒの読者は何年でも新刊を待つような人種がほとんどだと思うので、さほど気にしなくてよいと思う。

4 件のコメント:

  1. いとうのいぢ、まだイラスト描いていたのかというのが一番気になった。
    絵が変わっていたのと、
    流石にタックは解消していたと思っていたから、
    まだ、作者とタックを組んでるんだなと昔馴染み感を感じましたよ。

    そして、今更だが、
    のいぢが女性と知った。
    いや、忘れていたのかもしれんが、
    というかwikiで本人写真乗せるのはどうなんやろう。

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    1. 『ヘルシング』のヒラコーとかも、wikiにご尊顔をさらしてるから…

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  2. アレ、許可取って乗せるんだろうか、
    許可ならヒラコーは許可出さない気がする。

    そして、芸能活動的な所があるなら、
    キャラ付けが凄い、
    和服フィンガーグローブの京極夏彦さんは、
    顔出しをしてないんだよな。

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  3. ヒラコーのは、たぶんファンか勝手に激写してのっけた感じがするな。

    京極さんのファンは、勝手に写真を撮ってwikiにのっけるような人がいないのだろう。

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