2020年12月19日土曜日

『END ROLL』 おおざっぱ な まとめと感想


主人公は罪人である。それも、14歳にして死刑囚である。

注)
・このゲームは推奨年齢15才以上です
・リアルSAN値を削ってくる鬱ゲーです
・使われている画像は、すべてプレイ中のスクリーンショットとなります
 つまり、それなりのネタバレ要素があります



今やかなり有名になったこのゲームの流れは、シンプルである。




注射を打ち



夢の中で冒険し



冒険した相手の死を追体験し――




注射を打ち



夢の中で冒険し



冒険した相手の死を追体験し――





注射を打ち



夢の中で冒険し



冒険した相手の死を追体験し――




注射を打ち



夢の中で冒険し



冒険した相手の死を追体験し――






注射を打ち




夢の中で冒険し




冒険した相手の死を追体験し・・・




これが、ゲーム内時間で6日続く。





主人公ラッセルは、無罪を得る条件として「HAPPY DREAM」の投与による「HD式更生プログラム」を受けることを余儀なくされている。

これは、夢の中で「人並みの幸せ」を見せることによって、罪悪感を抱かせ、更生をうながさせる薬物療法だ。

使われる薬物「HAPPY DREAM」は、もろもろの副作用が強く、死刑囚にしか試せないものとなっている。

なので、更生というより事実上の刑罰に近い。





罪悪感を抱かせる方法というのがまた、底意地が悪い。



夢の中で死者を見せるのだ。

そう。
冒険のメンバーはすでに死んでいる。






主人公ラッセルは、彼が現実で殺した人間たちと、夢の中で交流するのだ。



●感想


・プレイし始めの所見





「あ、これすごいゲームだな」と気づいたのが、最初のエンカウントであった。

普通、ゲームの最初の敵に「入園チケット」(画面左)なんてもってこない。大変勇敢な選択だ。

そして、これも含めた「バケモノ」に深刻な意味を持たせている、というのがまたニクイ。



・キャラ


パーティメンバーは、悲劇をより劇的なものにし、プレイヤーに精神的打撃を与えるべく造形されている。

つまり、魅力的で、好感が持て、殺されるのはふさわしくない、と思わせる人々である。

ほんと、このまま剣と盾を持たせてファンタジー世界を冒険させてもいいメンツなんだよな・・・

個人的なお気に入りは閑照先生だ。

すっごくおもしろいキャラ、というわけでもないのだが、おせち料理の栗きんとんみたいに、いてくれるとうれしい人である。

『END ROLL』をクリアしたその日の俺の夢に出てきたしな(なぜか和室でいっしょに仮面ライダーを見ていた)。

まあ、彼自身は、尊属殺人&犯人蔵匿(ぞうとく)罪に問われる人ではあるのだが・・・


サブキャラについても、言葉の一つ一つに個性が出ていて、しかもイベントが進むごとにセリフが変わる場合が多い。

キャラに話しかけるのが楽しみなRPGといえば、『MOTHE』シリーズを思い浮かべるが、それと似た系譜だ。

もっともこのゲームは、キャラに愛着がわけばわくほど、ゲームの終わりで心がえぐられる仕組みなのだが。



・攻略難易度


難易度は、謎解きも戦闘も平易といえる。

謎解きは、しっかり町の人に話しかけ、マップをくまなく歩けば、クリア自体はたやすい。

ただ、隠し要素のフラグ立てが少々複雑なので、各種攻略情報を見る必要がある。


戦闘もむずかしくない。

しっかり装備を整え、料理と漢方薬(どっちも回復アイテム)をそろえ、氷は炎に弱く炎も氷に弱い、のような二律背反の属性に気を配れば、全滅はないだろう。

(『MOTHE3』の究極キマイラのごとき初見殺しはのぞく。まあ、このゲームのやつは一応逃げる余地を与えてくれるが)



・BGM


例えるなら、こじゃれた小料理みたいな曲が多い。ほとんどが作者様の自作となっている。

一曲一曲が少し短いものの、物語にあっていると思う。




お気に入りは「混濁」。焼き殺した相手の母親との戦闘で流れる曲である。

あと、「不思議な町」(これは作者作曲の曲ではないようだが)もよい。

この曲を聞いたとき、「あ、イヤホンがいる作品か」とイヤホンを取り出したもよう。



●まとめ


リアルSAN値を削ってくる作品はいい作品、という持論を持っているのだが、これはまさしくそうである。

他のほぼすべてのレビューが言っているように、鬱ゲーである。

特に、自分が投影された世界を破壊していくというシチュエーションは、ある種の感受性を持つ人間には耐えがたいものだろう。

ラッセルに施された、身柄を拘束して無理やり更生させるやり方は、『時計じかけのオレンジ』の終盤を思い起こさせる。

また、犯した罪とどう向き合っていくかのテーマは、ロシア文学を連想される。

そういえばこのゲーム、フリーゲームではめずらしいことにロシア語訳がなされている。

なお、この主人公の罪状を上げてみると――

殺人が最低8人(うち2人が放火による殺人)、薬物の使用、補導歴多数。そして、ゲーム中で明かされていない余罪も複数だと思われる。





やるせない部分があるとするならば、ラッセルには、魅力的な人々を造形する力があったことだろう。

街の人々を見れば、おのずと明らかである。

そして、なまじこの能力があったがゆえに、彼は苦しみ抜くこととなった。



※ ※ ※



さて、7日目を迎えた主人公は、突如現れたダンジョンへと足を向ける。

そこは、自分が暮らした家を思わせるものがちりばめられた空間であり、家は彼にとっての最後の犯行現場でもある。



普通のRPGでは、父性的なもの(権力者、力を持つ者)がラスボスである。

『END ROLL』は、母親がラスボスとなっている。

これは比喩表現ではなく、本当に自分の母親がラスボスなのだ。

彼女を倒すことはすなわち、自らの生の否定である。

産みの母を最期の敵としなければならなかったのが、ラッセルの悲劇であった。


※ ※ ※


このゲームは、終わりの積み重ねから、物語が始まる。

主人公が殺しを実行した時点で、殺された人の物語はすでに終わっており、主人公自身も、最初の注射を打った時に、その人生は最終局面を迎えた。

まさにあとは「END ROLL」なわけである。



商業では容易に行えないシナリオと演出。

一つの上質な文学を読んだような読了感。

こういう作品があるから、フリゲーはやめられないのだ。


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