2017年6月26日月曜日

『一万二千年後のレフュージア』キャラクター解説

●マモル(一式 護)

 主人公。「人炭」になる前は平凡な高校生で、その高校跡において発掘された。
 特に秀でた才能がない、というのが、彼の行動を最後まで規定する事になる。
 一見冷静で、感情の起伏に乏しくように見えるが、彼の行動原理は徹頭徹尾「その場の感情」であった。

 人炭から概念鎧に復活したのちの「戦わない」という判断も、更にそののちの「戦う」という方針転換も、いずれもその場の感情によって判断された結果であった。
 この点では、目的のためには自らの感情を「裁けた」兄とは対象をなす。

「最終的には鎧を脱ぐ」という考えでは一貫していたものの、そのため行動がちぐはぐになりがちだった。「鎧を脱ぐのを保留にして戦う」と決意するのは、かなりの数の人間が「テン・クル」に捕食された後だったし、一時は敵である神ナズに行こうとさえしていた。

 結局実の兄との決戦に臨んだのも、実の兄の所業を止めるという義務感もあったものの、彼への苦手意識が憎悪にまで発展した結果であった。

 心身の平凡な人間が、「概念鎧」という戦術兵器の究極の形になってしまったこと(そしてその究極が「期限」があったこと)に、彼の困難があった。

 ただ、残酷や非道を嫌う面において、彼はまったく健全な人格をしていた。
 人の意見を尊重し、見た目で判断せず、最低限事態を吟味する知力を持ち合わせていた。人助けの労は厭わなかったし、怒りで手が出ることがあっても後悔した。

 人並みにさみしがりやであり、かいがいしく世話をするツバメに惹かれたのはある意味当然のことであった。
 ツバメ自身も彼に思慕を懐いていたが、トラッシュレインの伝統は二人の結びつきを許さなかったし、それにその感情はそれぞれの「孤独」を埋め合わせる代償行為の域を出なかった。

 再び人炭となって復活した世界においてようやく、彼は心と今後を整理する十分な機会を得たことになる。そういった意味では、ほぼ完全に人類が姿を消した世界は彼にとっての「レフュージア」となるだろう。

●ツバメ

 マモルを発見し、破壊から救った少女。古代の機械を扱う「技師」の見習いで、年齢は15歳。

 幼少の頃は、長耳族でもめずらしい褐色の肌のため、しばしばイジメの対象になった。復活したマモルがそのようなことをしなかったことも、彼女が彼に好意を抱く原因の一つであった。

「ソソ」を体内に取り込みやすい体質で、その個性は最終決戦においても大いに役立った。なお、本人は知るよしもなかったが、プラネタリウムで見た「人減戦争」の映像に写っていた「魔術を使う長耳族の少女」は、彼女の先祖である。

 料理の才能があるものの、彼女が生まれた時代にはあまりにも貧弱な材料しか手に入らなかったため、その能力を発揮することができなかった。仮に彼女が現代(21世紀)に時空転移したら、かなりおいしいもの作れるだろう。

 実年齢よりしっかりしたカトレアや、実年齢より幼いミーアと違って、年齢相応の感受性を持つ。恋にあこがれる少女で、恋愛話に目がない。またさみしがりやで、戦死した兄の面影を主人公に見いだす。
 マモルに古代の手紙を「朗読」してもらったエピソードは、のちのちまで述懐する彼女の大切な思い出であった。

 戦後は、カトレアとの長い別れやマステドウの出立によって、「自分がしっかりしなければ」と自覚が出て、滅亡に向かうトラッシュレインの中心的人物の一人となる。差別語であった「エルフ」という言葉を自ら用いることによって、差別的な意味を解消し、長耳族全体に誇りを与えた。

 また、マモルの戦いのことを後世に伝え、彼が無事に復活のときまで過ごせるよう手を尽くした。
 
 いよいよトラッシュレイン都市としてが立ち行かなくなると、ミーアの子孫に自分も「人炭」にするよう頼み、カトレアと共に永い眠りにつくことになる。

 そのとき、「もう一人のお兄ちゃんに会いにいく」と、しきりに嬉しそうにしていたと伝わっている。
 
 一万二千年後の更なる一万二千年後、主人公と再会したとき、この恋と愛の区別がついていない状態をどう折り合いをつけるかが、彼女にとっての課題となると思われる。
 
 

●カトレア
 
 ニューカムの一つである「竜人(ずめう)」の少女。竜人であることと、戦闘民族であることに誇りを持つ17歳。

「魔教導文明時代」に製造された竜人の最後期バージョンの子孫であって、その身体能力は最も高い。

 身体を構成する成分こそほとんど人間と変わらないが、ソソをフル活用した急速な鱗化、人間が本来備わっているリミッター機能を意図的にはずす能力、及び本人の蛮勇とも言うべき思い切りの良さによって、一万二千年後の時代において、単独で概念鎧と互角に戦えるほぼ唯一の存在と言える。

 特に、彼女の生産タイプから実装され、彼女にもしっかりと受け継がれている「第2戦闘モード(通称カミカゼモード)」は、使用者に多大な負荷をもたらすものの、全ての身体能力を底上げし、さらに物理現象を先取りする(例えば数秒後に放たれるべき二発目のパンチのエネルギーを現在に「転移」させて、現在進行形で放たれているパンチの威力に上乗せする)能力を発揮する。

 カトレア自身の性格は、良くも悪くも年頃の少女で、一途で向こう見ずなところがある一方、繊細な一面も持つ。マモルに対して重要な告白をする端緒を作り出したのも、彼女であった。

 一万二千年後の主人公を追って人炭化するエピソードは、彼女の性格を最も現していると言えるだろう。

 妹分であるツバメが、自身の兄の面影をマモルに見いだすのに感化されて、自分もマモルに対して好意を懐き始める。ツバメの兄は、かつて自分が助けられ、救うことのできなかった人物である。

 その好意にかかわらず、自分の祖国が「概念鎧」として彼を利用しなければならない状況に板ばさみになり、なかば「つぐない」の気持ちから、半ば強引にマモルの一人旅に加わる。その道中、彼に戦いを挑んだのは、彼女なりの気持ちの整理のつけ方であり、自身の処遇を主人公に委ねた結果であった。

 竜人の女性は、原則として自分より強い男性と婚姻関係を結び、その際に自分の利き腕側の角を切って相手に渡す。これは「あなたに命を委ねます」という意味がこめられている。
 彼にそれを行なったのは、もちろん好意によるものだが、罪滅ぼしや「義理を果たす」という義務感ゆえの結果であったことも否定できない。

 一万二千年後の更に一万二千年後では、この感情をいかに克服し、マモルとの関係を育んでいくかが、彼女の課題となるだろう。

 ちなみにだが、彼女の生まれ故郷である「アカギ」は、石油機文明時代における「赤城山」一帯に相当する。
 
 

●マステドウ

 一万二千年後の世界における「学者」。先祖は長耳族の中でも、頭脳労働をつかさどるべく高い知能の男女同士で交配を繰り返してきた家系で、長耳族の特徴である長寿とあいまって「トウ共和国」においてもっとも頭のいい人物の一人。

 高い知能ゆえ対等な話し相手がほとんどおらず(唯一機械関係でデミオと議論できたぐらい)、精神面があまり育たなかった。初対面の主人公に「発掘」を強引に手伝わせたり、物語後半になるとその知識量ゆえ悲観主義にとらわれたりするなど、メンタルには若干難があった。

 自己犠牲的に振舞う主人公や、その主人公と共に歩もうとするツバメやカトレアを目にして、自分も「どうやったらより人に役に立てるか」と考えるようになる。 

 神ナズとの最後の戦い以後は、その思いをますます強くした。「神ナズ」との秘密条約に加担した負い目も手伝って、ついには物語り最終で語られる「ダイバーランドを用いた(絶望的な)移住」の指揮をとるという形になっていく。

 成長はしたが、最後まで幼さは残るという結果になった。

●クレナイ
 
 トウ共和国の貴族にして、「トラッシュレイン隊」の隊長。17歳。いわゆる貴族のお坊っちゃん。

 貴族であることに非常な誇りを懐いていて、当初は主人公に対しても見下したような態度をとる。ただ、この時代になじもうと必死に振舞う彼を見て、物語後半は多少軟化する。

 貴族としての「ノーブル・オブリージュ」的な責任感が強く、無謀としか言えない振る舞いをたびたび行なう。祖国のためとはいえ子ども兵を生身で突撃させたり、サーベルで概念鎧に白兵戦を挑んだりと、正気を疑う行動も散見された。

 ただ、これは「現状を良くしたい」という彼なりの考えがなせる行動であった。彼が本当に冷酷な悪人であったら、主人公やカトレアと関係を結ぶことは出来なかっただろう。

 良くも悪くも政治家で、ひょうひょうとしている義理の父のことは嫌っている。内心では「トラッシュレイン市長としてしょうがない」と思っているものも、それでは収まらず、作中の裏において度々衝突した。

 クレナイが明確に言葉に出して義父ホシ・ツガルのことを認めるのは、彼が神ナズとの条約を破棄したあとであった。

 戦後は、神ナズの「SEX牧場」に捕らわれていた少女と結婚した。戦時状態からくる男不足のため、「一夫多妻」が認められているこの世界においては、めずらしく妻を一人しか娶らなかった。その孫やひ孫は、よくも悪くも最後期のトラッシュレインの歴史をにぎわすことになる。
 

●デミオ

 一万二千年後の世界における「機械技師」。代々「乗り物」の研究をしてきた家系だけあって特に乗り物への造詣が深い。自身の名である「デミオ」も、石油機文明時代の乗用車にちなんでつけられた。

 作中ではそれほど登場しなかった(しても単なるウザイ人だった)ものの、縁の下の力持ち的な人間で、主人公への資材や、効率的な移動手段、その他もろもろの機械の用意を影ながら行なっていた。主人公に「概念鎧」について説明したのも、彼であった。

 最終決戦後は、引き続き機械の研究を継続しつつ、再び人炭となったマモルの保存に心を砕いた。「時空転移装置」が長い年月ののちも可動可能な状態だったのも、彼の尽力によるところが大きい。

 生涯独身で、享年150歳と、長耳族にしては短命であった。

●ミーア

 猫人(まおるふ)の少女。一万二千年後の世界においては、治安をつかさどる「相士」の役目を持っている。19歳だが、精神年齢はその半分ぐらい。
 天真爛漫で、思い込みが激しく、人の話を聞かない。動作が機敏でおもしろく、妙な知識があって、言葉の用法が独特。つまり、隣にいたらウザイが遠くから眺める分にはおもしろい人物。作者的には、書いていて楽しかった。

 彼女自身は「猫の九生」を「高度なべーず推定」と言っているが、実際はソソによる「自分の都合のよい近未来の先取り」であって、ベーズ推定などという生易しいものではない。

「魔教導文明時代」の最後期に実装されたこの能力は、使い方は幾分限定されるものの、条件次第では戦略兵器よりもおそろしいものであった。
 九回この能力を使ったあとは哺乳類のネコになるという条件は、未来の先取りの反動を(極めて穏やかな形で)解消するための、一種の「防衛機能」である。

 彼女は「ダイバーランド」でこの能力を初めて使い、その後の最終決戦においてアトミックを炸裂させる瞬間に残りの八回全部を消費し、もれなく「ネコ」になった。

 その後は哺乳類の「ネコ」のように生き、その後、実は生き残っていた(侵攻して来た神ナズ軍のペットとして持ち込まれた)本物のネコと4子をもうける。

 その内一体はネコではなく「猫人」として生まれ、成長した彼女とその子孫は、代々ツバメのよき友人となった。

 マモルが改めて「人炭」から復活した後も、彼女の子孫は健在で(ただ、ヒトが絶滅したせいで人語がまったくしゃべれない)、マモルを導く役目を果たした。
 
 

●アニキ(一式(いっしき) 宗(そう)治(じ))
 
 マモルの兄。「アトミックの計画」の主要な推進者の一人にして、自らフロート・シェルに入って「人炭化」した男。
 
 目的意識の塊で、そのためには自分の肉親を利用する事も厭わない。まちがいなく冷酷なのに、それをぎりぎりまで感じさせない、やっかいな人物。多感な青年の時期に肉親を失う泥沼の戦争を体験したため、もともと強かった正義感が歪んでしまった。

 勉強も、実務も、極めてよく出来たものの、情緒の面では致命的に欠落していた。

 自衛隊に就職した後、国連軍の上位組織として編制された部隊(秘密保持のため、名前さえつけられなかった)に出向、そこで「アトミック」の計画を知り、のめりこんでいくことになる。

 二発のアトミックを投下し、人類の大半を人炭化させ一時的に一掃した後、いずれ復活するその人類の指導者の一人になることを目して志願。安全性の確認が取れていなかったフロートシェルのプロトタイプに搭乗、見事人炭となった。

 そして復活したのちは、同じ時期に復活したマモルに対して硬軟取り入れた過酷な干渉を展開することになる。

 ただ、マモルやその妹のスバルに対しての愛情は本物で、しかもその愛情は、「肉親を大切にする人間が人類繁栄の礎だ。だから自分もそれを実行する」という強固な哲学にも支えられていた。

 もっとも強力な機会主義者でもあったので、妹を利用する事への躊躇はほとんど沸かなかった。

 それこそが、その行動が一貫しているのに矛盾しているとの印象を与える、要因にして、不幸の源泉であった。

 なお、彼が「アトミック教」や「SEX牧場」を肯定的にとらえたのは、出向先のアメリカにおいてであった。性的に暴行された女性が宗教上の理由から堕胎できず出産したのを見て、人口の維持という観点では「宗教」や「暴力的な手段」が効果的になりうると気づいたためであった。

小説本編はこちらから
http://ncode.syosetu.com/n0574dz/

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