2020年11月21日土曜日

たまむず本 H・P・ラヴクラフト『インスマスの声』新潮社

 


作家名:H・P・ラヴクラフト

ジャンル:コズミックホラーの元祖

舞台:1920年代アメリカ,アーカム、インスマスなど

形式:アンソロジー形式の短編集


死後に名声を博する作家はしばしばいて、日本だと宮沢賢治が有名どころか。


海を越えたアメリカでも、生前は誤字だらけの一冊を上奏しただけで終わったけど、死後に友人の尽力で作品が広まり、追従者を得て、ゲームやらアニメやらTRPGになって名をはせたって人がいる。H・P・ラヴクラフトって言うんだけど。


知る人ぞ知る作家の常で、日本じゃ手に入りやすい選集がなかったんだけど、令和になって大手の新潮社から短編集が出た。


今日はその短編集『インスマスの影』を読んだ感想。




読み始めてまず思ったのが「文体になれる必要があるな」だった。


読みにくいわけではないのだが、少し独特で、すいすいと読ませてくれない。


だが、なれてしまえば、作品にひたるのはたやすい。


以下、各話の解説と神格についてのメモ



・異次元の色彩

宇宙からの隕石がなんか落下地点の生態系を激変させているんだけど? なストーリー。

おそらく、クトゥルフ神話TRPGの動画でたまに見かける「宇宙からの色」の元ネタ。

静かな書き出しから一変して、終盤はパニックホラー調になる。



・ダンウィッチの怪


人外のくせに、犬にかみ殺されるクソザコウィルバーくんの話を聞いたことがないだろうか? この話はその元ネタ。


ヨグ・ソトースが出てくる話でもある。


神様ご本人はさすがに完全降臨しないものの、その片鱗でさえ、もろもろに害を与える。




・クトゥルーの呼び声


アメリカの片田舎の邪神崇拝を追っているうちに、世界中で起こる異常現象、そして太平洋の地図に載っていない島・・・ 

と、どんどん外宇宙からの存在が明らかになっていく構成。


事件が起こり、その関係者に話を聞いて回り、残された手記を読み―― と、現在のクトゥルフ神話TRPGの原型がしっかりできあがっている。


また個人的に興味深かったのは、世界中の芸術家や精神異常者が、同じような狂気に陥ったという点だ。


たぶんラヴクラフトは「集合的無意識」の概念を、おぼろげながらに理解していたのだろう。




・ニャルラトホテプ


ニャルラトホテプが初めて出てきた話。

短い。とにかく短い。


文庫のページにして6ページであり、たんに「忌まわしい存在」という印象しか残らない。


この話から、どうやったら「ニャル子さん」みたいなのが生まれるんだ・・・


・闇にささやくもの


TRPGではゴミでおなじみミ=ゴさんの登場回。個人的には一番好きな話。


コズミックホラーというより、サイコスリルっぽい。ミ=ゴさんの理知的なストーカーっぷりがいかんなく発揮される。


山で目撃される異様な化け物。徐々に気がくるっていく文通相手。そして、その家におもむく主人公・・・


クトゥルフ神話の概要といったおもむきがあり、主要な神格のおおざっぱな説明がなされる。

読者はこの話から先に読んでもいいかも。




・暗闇の訪問者


理知的な青年が陥った狂気とは・・・?


ラブクラフトが友人の作家に、自分をモデルにした登場人物を殺された意向返しに書いた短編。もちろん主人公は死ぬ。


星の知恵派、輝くトラペゾヘドロンなどが出てくる。




・インスマスの影


この短編集の表題になっている作品。クトゥルフ神話TRPGだと、ミ=ゴに次いで敵役である「ダゴン秘密教団」の登場回である。


退廃した街「インスマス」に潜む不思議を追って、青年がおとずれる。

よそ者を受け入れない風土に、魚面をした住人。そして、出所の不明な装身具・・・


ラヴクラフト独特の凝った言い回しが少なく、読みやすい。




●総評


「冒涜的」などの宇宙的な恐怖の描写は、ラヴクラフトがすでに確立していたことがわかる。


主要な神格「クトゥルフ」「ヨグ・ソトース」「ニャルラトホテプ」「ハスター」などはすでにその著作で登場している。


またクトゥルフを抜きにした怪奇小説として見ても、雰囲気はバッチリだし、心理描写も悪くない。

地形の描写もうまく、いかにもありそうな民間伝承の創作も巧みだ。


じゃあ、ラヴクラフトが望んだように、この作品群は売れるだろうか? 本読み以外に、市民権を得られるだろうか?


うーん、売れないよな。とは答えてしまう。


文章はヘタではないし、恐怖の描写は秀逸。また科学の素養――少なくとも、科学的な描写を自作に取り込む力――もある。


ただ、彼の作品には売れる要素、すなわち明確な敵、かわいい女の子、血沸き肉躍る戦闘がほとんどない。


(ちなみに、生前の彼は、スポーツなどの勝負ごとにまったく関心がなかったそうだ)


彼の妙味は、当時のダイムノベルの読者層に、そぐわなかったことだろう。



俺はおもしろい作品だと思う。

が、なんでおもしろいかっていうと、俺がクトゥルフとかニャル様とかゴミさんとかの知識を、あらかじめ持って読んでいるからだ。

ようは、アニメを見てからその原作の漫画なりラノベなりを読む楽しさである。

これをまっさらな状態で一から読んだら、おもしろいかどうかはわからない。


※ ※ ※


いま日本ではやっているクトゥルフTRPGの動画の中で、おふざけではないマジメにやっているものは、そのもどかしさや恐怖をよく伝えている、といえる。


人間の本質に迫る恐怖、またそれさえ踏み越えていく「居心地の悪さ」。


そして、二次使用者の趣向次第で活劇にもギャグにもなりうる可変性。


これこそがラヴクラフトの妙味であり、彼が「クトゥルフ神話」の創始者たるにふさわしい、所以(ゆえん)だろう。


注)

このブログの記事の神格の表記は、今回紹介した小説の表記に従っていない。

クトゥルー → クトゥルフ

ヨグ・ソトホート → ヨグ・ソトース

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