2017年3月14日火曜日

たまむず本 第一回 エピクテートス『人生談義』

約1800年前の「人生論」
エピクテートス『人生談義』岩波文庫
 
主な成分:ストア哲学 古代ローマ 元奴隷のおっちゃんの説法
 
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 さてさて、「むずかしい本」と呼ばれるものは、この世にたくさんありますが、ここでは本当に難しい本を紹介したいと思います。「たまにはむずかしい本を読もう」略して「たまむず本」、栄えある第一回目はコイツだ。
 
 
 
●エピクテートスってなんぞや?
 エピクテートスはストア後期の哲学者で、もともとは奴隷だったけど解放されて弟子を取り、後世のマルクス・アウレリウスとかの影響を与えた。彼自身はソクラテスを見習ってか著作を一つも残さなかったけど、お弟子さんが授業を筆記してまとめている。これが今回紹介する『人生談義』だ。なに言ってるかよくわかんない? そうですか。
 
 ようはストイックの語源になったストア哲学の有名人で、ローマ皇帝マルクス・アウレリウスにも影響を与えましたよっていう意味だ。時代的には、『テルマエ・ロマエ』のルキウスと(ほぼ)同時代の人かな。
 
 この『人生談義』、一言で表すと・・・
 
ソクラテスの言動からストア哲学の理論に合うところを引用した書物
 
と言える。
 
 岩波文庫だと、上下二巻なんだけど、3ページに一度はソクラテスの言動の引用がある。
 
「だがソークラテースは、それらのものをうまく、お化けの仮面と呼んでいる。というのは、ちょうど子供らには、経験がないために、その仮面が恐ろしく怖く見えるように、われわれもこの世の事柄に対しては、同じような気持を懐くのであるが、その故は、ちょうど子供らのお化けに対するのと、ちっとも違わないからである」
(上巻 P127)
 
「――ソークラテースの生涯はわれわれにとって手本である、彼はただに自分自身、どんな場合でも、争いを避けたばかりでなく、他の人たちをも争わせなかった」
(下巻 P175)
 
 これは、当時は過去の偉大な人の言葉を引用して書物を書くことが流行っていたことと、あとエピクテートス自身にオリジナリティが欠けていた面もある。ストア哲学自体が、古代の良い気質を現代に伝えるみたいな性格があって、それに彼は忠実だったんだな。
 
 興味深いのは、ストア哲学の開祖であるゼノンの引用が、ほとんどないことだ。
 
●ストアってなんぞや?
 もともとストア哲学は、ギリシャが最も輝いていた時代である2500年ほど前に、アテネに住んでいたゼノンというおっちゃんが開いた。後世「ストイック」の語源になった哲学だけあって、質素倹約質実剛健な教えで、生まれた土地より軍国主義を採用していたローマで大流行した。
 
 エピクテートスが活躍した時代のローマは、ローマが最も繁栄していた時期のひとつで、庶民でさえそこそこの生活水準を満喫していた。高祖ゼノンの説が表立って目立たないのは、そんな時代に「徳と自制」を説いても、あまり効果がなかったせいもあるだろうな。
 
 だから、どちらかというとエピクテートスは「人生をあくせずせずにどう乗り切るか」を重視して、説法をしていたようだ。
 
「君が肉体の点で質素に甘んじている時、それを自慢せぬがいい、もし君が水を飲んでいるなら、どんな場合でも、水を飲んでいるといわぬがいい。もし君が苦行をしようとするならば、君自身のためにやり給え、外部に見せるためにやるな、彫像は抱かぬがいい」
(下巻 P280)
 
 なお、その後世の中にキリスト教がはびこってくると、ストア哲学も「異教の教え」ということで排除され、以後一度も復活することなく、現代に至っている。
 
●この本を読む意義は?
 うん、ぶっちゃけあまりない。
 ストア哲学は倫理学、物理学、論理学の三位一体なんだけど、このうち現代人の感性に耐えられるのは倫理学しかない。
 
 物理学は、ようは宇宙論で、宇宙には「地水火風」の四元素があって、火はエーテルのことで、他の物質の最上位で――っていうまあラノベの世界感だし、論理学は今風に言うと言語学で、「宇宙には二つの原理があって、能動的原理と受動的原理である。能動的原理は実際はあるけど実体はなく、受動的原理は実体の中に存在する理性であり――」オマエハナニヲイッテイルンダ?
 
 倫理学の方は、単純に言うなら「感情にとらわれず、大宇宙の摂理に従って各々が良く生きる」ことを目標にしていて、これは現代人にも教訓深い。
 
 ちなみに、今流行のアドラーの教えは、明らかにこのストアの倫理学と共通する部分が多い。ストアでは大宇宙の摂理=神なんだけど、アドラーはそこから宗教色を抜いてリバイバルした感じだ。
 
 もう一つついでに言っておくと、昔あった「ガンダムSEED」は、ストア哲学の用語を随所に散らばめてある。
 
 ラスボスである仮面の土井先生が乗る「プロヴィデンス」は「摂理」という意味だ。敵役の組織の名前である「ロゴス」は、うんと噛み砕いて言えば「理性」となるな。
 
 そもそもSEED(古代風でいうならスペルマ)というのが、ストア宇宙論で宇宙創成の原因とされる概念だ。
 
 まあSEEDのキャラはみんな、感情に動かされ、女の尻を追いかけ、歌にうつつを抜かす、ストアの理念とはかけ離れた行動をしているけどな!
 
で、『人生談義』に話を戻すけど、ストアの倫理の集大成を読みたければ人生談義ではなく、マルクス・アウレリウスの『自省録』をおススメする。これも読みやすい本というわけではないけど、ストアの性格をはるかによく伝えている。はまる人ははまる本かもな。
 
 あ、『人生談義』を読まないまでも、古本屋で見つけたら買っておいていいかもしれない。
 
 この本、だいたい4年のサイクルで休版と再版を繰り返していて、時期を誤らずに売れば「せどり」ができるのだ。
 
 筆者が知る限り、2016年に再販する前のこの本の値段は中古で2,500円ほど。チェーンの古本屋とかで300円ぐらいで手に入れたら、ネットで転売してみてもいいかもしれない。
 
とゆうより、こうゆう本も必要な人がいるので、ネットの海に解き放って、欲しい人の手に渡るのに貢献するのも、悪くないと思うぞ。
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