2024年7月20日土曜日

唯一無二のゲーム体験『天穂のサクナヒメ』レビュー

 『天穂のサクナヒメ』は唯一無二のゲームだ。


数が決して多くない「和風ファンタジー」であるうえに、そのうえ「コメ作り」まで体験できるとあっては、唯一無二と呼んで差し支えない。


そう、「コメ作り」である。


農業の要素があるゲームは、例えば「どうぶつの森」とかでもあるのだが、「サクナヒメ」の場合は、厳密に耕作を行なっていく。


苗を植え、水を張り、雑草を取り、病気に気をつけ、秋に収穫をする。



収穫したコメを脱穀し、精米する。



「サクナヒメ」のジャンルは「稲作アクションRPG」


ゲームシステムいっぱいの、農業体験だ。



★システム


物語は、


「鬼を討伐して島を開拓して米を作る」


であり、

 

ダンジョンを攻略 → コメ作りに必要な素材などを入手 → コメ作り →  コメ収穫 → サクナのステータスアップ → 更なるダンジョンを攻略

 

がサイクルとなってくる。


「ダンジョン」と書いたように、アクション要素があり、ゲームは「コメ作り」パートと「アクション」パートに分かれる。


コメ作りパートは、さっき書いたように、田植えから収穫まで行なう。

最初に面食らうのは、工程ごとに「ミニゲーム」をさせるところだろう。


田起こしに、コントローラーのボタンを長押しさせて、鍬(くわ)をふらせる。


田植えではは、同じくボタン入力で苗を手に取り、二回目の入力で植え付けていく。




ゲーム内に季節が設定されていて、夏の間は水を張ったり雑草を抜いたりと、つきっきりのお世話だ。


そして秋。


稲刈りにも、コントローラーの操作が必要だ。

刈った稲を干して乾燥させ、こきばしでわざわざ脱穀をさせるに作業にいたっては「ここまでするか」と思わず笑った。





「種もみの選別まではさすがにしないかー」

と思っていたら、あとになってしっかりミニゲームとして登場する(しかも泥を使うか塩を使うか選べるようになる)。


▲精米までこぎつけた「コメ」のリザルド。この数値によって、サクナヒメがステータスアップする。

 

つらつらと書いたが、脱穀までして精米し、そのコメ「品質」によって、主人公がパワーアップするという、わかりやすいシステムだ。




アクションパート(ダンジョン攻略)は、「簡単」と言って差し支えない。

オーソドックスな2Dアクションで、切ったり叩いたりして、鬼を倒してゆく。


ザコ戦はぶっちゃけ、適当に攻撃ボタンを押しているだけで、なんとかなる。

カンタンとはいっても、多数の敵をぶっ飛ばす爽快感や、素早い動きを可能にするギミックサクナの場合「衣」。『進撃の巨人』「立体起動装置」的なもの)は備えており、アクションとしての勘どころは押さえている。



ボス戦となると、さすがに工夫が必要になってくる。コメの「品質」によるステータスアップや、前日の「食事」によるバフが必要だ。

ただ、意地の悪い攻撃や、初見殺しもほとんどないので、初期の「ロックマン」のように、根(こん)をつめてやることもないだろう。


それに「簡単」とはいったものの、動画配信者がやっているようなRTAや「縛りプレイ」を条件に課すと、途端に難しくなると思われる(「ノーダメクリア」とか、むちゃくちゃむずかしそうである)。


「縛り」を加えれば手ごわくなるのは、良作の条件の一つであるが、「サクナヒメ」はその条件を満たしている。





★キャラ




キャラは、みな個性的で、物語にもあっていると思う。




ニートで駄女神(だめがみ)の要素さえあるサクナヒメに・・・



その忠臣タマ。




 農業にあこがれる侍の田右衛門に――



 海を超えてやってきた異人のミルテ。
 

 言葉を失った かいまるに、


 鍛冶師にあこがれる少年きんた。


 謎を持つ少女、ゆい。


それぞれのキャラがなにかしらの能力を持ち、「コメ作り」や日々の暮らしにちゃんと役割がある。



敵キャラも、それぞれ動物モチーフなので、親しみやすいように思う。

ブログ主のお気に入りはこの「大筒を操る兎鬼」




大筒(大砲)をひたすら前方にぷっぱするだけの相手なのだが、この大砲、明らかに「フランキ砲」(日本では戦国時代に使用された)という実在の大砲をモチーフにしている。



発射の時、ちゃんと子砲しほう:弾と火薬を装填したパーツ)をはめこむし、子砲に点火するところまで再現してある凝りようなのだが、敵味方関係なくぶっぱし続けるのがアホすぎる

なんなら標的のサクナが真後ろにいても撃ち続けて鬼仲間を一掃するので、こっちが弱体化しているイベントの時などにはお世話になった。


★BGM


BGMは「和ロック調」とでも言うべきか。

ゲームに合い、そしてしっかりと印象に残る。

 

個人的なお気に入りは「樹(いつき)」。

 

ラストダンジョンの曲なのだが、「和風」ながらちゃんと物語の終着点、といったことが伝わる曲だ。

 

ゲームをやった人間なら、曲の途中に、挿入歌の「田植え歌」のフレーズが流れてきたとき、テンションが上がったはずだ。



★イベント




イベントは、ファンタジーを盛り上げるものを手堅くそろえていると思う。





仲間との不和と仲直り、友人との葛藤、主人公のピンチと、強大な敵の復活と最終決戦などだ。




それぞれ事情がありそうなキャラ達には、やっぱり事情がある。



田右衛門は「逃げ出した侍」であり、一時は山賊にまで身を落とした。ミルテは異国(オランダモチーフ?)から布教に来たところ人買いの手にかかり、他の仲間も「戦(いくさ)で家を焼かれた+人買いの手にかかった」のダブルコンボだったりする。


各キャラには、織物、鍛冶、家畜、料理、と、各キャラにはそれぞれ受け持ちがあり、それらがイベントとして起きる。


たんに新しいアイテムの獲得イベントではなく、各キャラにちゃんと「欲求」があって、個性付けに一役買っている。


あと、仲間の一人が主人公とケンカして飛び出してしまい、そいつをダンジョンまで探しに行くイベントとかもあるのだが、そいつはちゃんと、突破が容易な最初の方のダンジョンにいて、手間をかけさせない。

このゲームは、ゲーム内時間が季節ごとに設定されており、り、「コメ作り」と密接にかかわっている。

「コメ作り」の邪魔をする奴は、割とマジで恨む対象になる。そういった意味では、手間がかからないのは素晴らしいと言える。



ただ、主目的のコメ作りも、順風満帆とはいかない。


稲の病気に、害虫や雑草の被害などが、毎年のコメ作りについて回るし、それに、大きなイベントもある。

 


ネタバレになるので詳しくは書かないが、天変地異や、戦での焼き討ちに悲哀する農民の気持ちが、味わえる。




★時代考証


時代考証は、よい意味でおおざっぱである。


だいたい中世~戦国時代なのだが、「コメ作り」に関しては、近世(江戸時代)ぐらいの水準に達する。




例えば脱穀で使う「千歯こき」は、サクナヒメがベースとしている中世~戦国時代には存在していないものだが、「きんたの発明」ということで登場している。


また、植える前の苗を育てる「育苗箱」なんかは、ほとんど近代の技術だったりする。

※それまでは箱に入れず、常に水の流れる場所で育ててから、田んぼに移していたらしい。




料理のレパートリーなんかもそうで、たぬきそば(天かすをまぶしたそば)、卵焼き、などは近世~近代の代物だったりする。

※卵料理が日本で普及するのは、明治時代以降。


 

ただ、不自然さはほとんど感じさせない。


それは、食事にしても農具にしても「物語に必要」だからだろう。

 

「コメ作り」を知ってもらうという点で、現代にも通じるような工程をゲーム内で再現するのは、必要なことだろうし、ダンジョンで料理の「素材」をとってくるのだから、いろんな料理がレパートリーにあったほうが嬉しい。


だから、「作業」にも似たコメ作りに愛着が出てくるし、食事もなんだかおいしそうに見えてくるのだ(ゲーム内で素麵を喰ったら、現実の夜ごはんも素麺にしようかなどと、考える)。


★ゲームの感想

唯一無二なだけでなく、いいゲームだな、と思った。

 

アクションパートに関しては、これよりも「凝った」ゲームはいくつかあるものの、コメ作りが主な目的なゆえ、「ちょうどよい」といえる。


 

セリフの数は、ものすごく豊富というわけではないものの、印象に残る言い回しがたくさんある。なにより、そのキャラにあっている。

 

「サクナヒメ」はパートボイスなのだが、それでもセリフの一つ一つが、声付きで脳内再生余裕だった。「このキャラならこのセリフは言いそう」が、たくさんなのだ。


結論を言えば、「やってよかった」といえるゲームであり、ずっと記憶に残るゲーム体験をさせてくれた。


アニメ化されるのも、納得のできである。


※ ※ ※


『天穂のサクナヒメ』に出てくる農作業の知識は、少なくともすべての日本人が知っておいた方がいい知識だ。

 

それを簡潔にわかりやすく、ゲームに落とし込んだ。

 

『天穂のサクナヒメ』は唯一無二の存在であり、文化に多大な貢献をした作品と言える。


※ ※ ※


★余談

この記事を書いている時点で、アニメは2話まで放映されている。


感想を言うなら、


「ゲームの雰囲気をうまく落とし込んでいる」


だ。


キャラ同士のやり取りや暮らしていく峠の情景は、ゲームでの日々を思い起こさせる。


サクナヒメが鬼と戦う時のセリフに「どこを見ておる!」というのがあったのだが、これ、ゲームで頻繁に聞くセリフだったりする。

 

衣を使って敵の背後に回り込むとき、このセリフを言うのだ。

 

こういったファンサービスもしっかりやってくれる、いいアニメだと思った。


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