2019年5月27日月曜日

出張先でもプラモ 第16回 ハインケルHe162 A‐2 サラマンダー(タミヤ1/48傑作機シリーズ)レビュー付き


時は20世紀、場所は、ヒトラー率いるドイツ第3帝国。


この帝国は第2次世界大戦で、ヨーロッパのだいたいの国と戦う羽目になっていたのだけど、そんな中、創意工夫と独創性をこらしていろいろな兵器を生み出した。

その兵器群は、おかしかったりゲテモノだったり21世紀の現代の技術を持ってさえ実用化できないアイディアだったりしたのだけど、ちゃんとしたものもあった。
 

今回紹介するハインケルHe162 A‐2 サラマンダー戦闘機だ。
 



ハインケルHe162 A‐2 サラマンダーは、実用化されたばかりのジェットエンジンを搭載した飛行機だ。

この飛行機の開発が決まった1944年は戦争の末期で、ドイツの上空に爆撃機がぼんぼん飛んできていた。つまり、1機でも迎撃戦闘機が欲しい戦況だった。
 


キットの中身を確認。

パーツ分けは、1/48サイズのタミヤ製品のわりにはシンプルだ。
 


ただし、ジェットエンジンの部分は凝っていて、飛行機から取り外して別個にある台車に取り付けて展示することが可能だ。

さっそく組み立てていく。

 


▲胴体を仮組み。これで、ちゃんと接着剤で組んだ後の感じをたしかめる


 


▲エンジンを載せる台車




▲脚の部分。前輪と、後輪×2。
後輪はBf109戦闘機(プロペラ機だよ)のものを流用したそうだ。
 



▲後輪を収納部にとりつけ。戦時量産機のくせに、けっこう凝った構造をしている。




▲ガンツのアレ。
ウソです。飛行機の重心を保つためのバラスト。

これでプラモの完成品が、しりもちをつかずに済むってわけだ。



▲バラストは、こうやって仕込むのだ。

バラストは、実機でも重心の問題を解決するため搭載された。





▲エンジンを組み立てた状態。




▲エンジンと胴体の取り付けは、ポリキャップと金属製の軸棒で行なう




▲胴体、コクピットガラス、主翼、エンジン、尾翼。シンプルさが伝わると思う。



ちょっと実機の解説を。

爆撃機が飛んできている中での開発なこともあって、当局の要求仕様はきびしいものだった。

1.最大速度750キロ以上出して
2.でもジェットエンジンは一つしか使っちゃダメよ
3.金属が足りないから木材中心で作って
4.グライダーでしか訓練していない人でも、乗れるようにして


 
1.750キロというのは、撃ち落としたい爆撃機より200キロ近く高速である。オーバースペックのような気が・・・

2.エンジンを2基積めば、速度もその分上がるのだが、残念ながら1基だけという縛りが課せられた(主に生産性をよくするため)

3.当たり前のことだが、木材より金属の方が丈夫だ。だから飛行機にはだいたい金属を使う。低速の練習機なら木材を使っても大丈夫なのだが、あいにくこれは最新鋭の戦闘機である。

4.グライダーの滑空速度は、せいぜい100キロ前後である。自転車しか乗ったことのない人に、いきなり中型バイクに乗れ(そしてそこから銃を撃て)と言っているようなものだ。

 

つまり要約すると、戦況が厳しいから簡単に生産できて操縦も優しくしかも高性能な飛行機を作れ、ってことだな。

 
ついでに言うと、武装は30ミリ機関砲を使おうって話になっていた。直径30ミリの弾丸を発射する機関砲は、重すぎてこの時代の戦闘機には積めなかった。いや、ドイツ軍は積んでいたのだが、それは、エンジンを二つ搭載した馬力のある飛行機での話だった。
 

この、ヒトラー総統の肝がはいった飛行機の計画名は国民戦闘機

ヒトラーは戦争前、「国民車」たるフォルクスワーゲンを普及させた功績があったのだが、それにあやかったのかもしれない。
 



▲組み立てて、簡単にだが色を塗った。



実機の解説を続ける。

状況が厳しいものだから、最新技術を使っていたのに、納期はタイトだった。

各飛行機会社への計画発表日から10日以内に、基本設計案を出すようとのお達しだ。

そのうちの一つ、ハインケル社は、計画前にすでに自主的に開発を進めていた。

この会社は世界初のジェット機の飛行を成功させた会社だったものの、ヒトラーにあんまり気に入られていなかったこともあって、機会が十分に与えられていなかった。

そのせいもあってか、かなり気合をいれて作業し、3か月後には試作一号機のテスト飛行に成功。しかも最高速度838キロをたたき出した。


▲そういえば、模型の記事で、その作業風景を映しているのないな、と思って、うpした。おもしろくない絵だなぁ



実機の量産も速やかに行われ、年が変わった翌年の1月には、一号機がロールアウトした。

実は、設計から試作機まで突貫でやったものだから、いろいろ安全性に問題があったのだが、すでにドイツ本国への侵攻が始まりつつあった。


こうゆう高性能機は、エリート部隊に配備されるのが常だ。


そのうちの一つだった〈第一飛行隊〉だ。

FW190という、丈夫で素直なプロペラ機を使っていたこの部隊は、いきなり未知で難のある機体をあてがわれたのだった。それでも4月には敵機の撃墜を記録したものの、そのパイロットは滑走路で別の敵機の着地狩りにあって戦死。

さすがに速度が速いため、まともに飛んでいるときに撃墜されることはなかったようだが、エンジントラブルと燃料切れで、少なくない損失が出た。
 
サラマンダーは、操縦がむずかしく、しばしばエンジンが急に止まることがあった(そして、エンジンが一つしかないため、不時着一択だった)。

燃費も最悪で、30分しか飛んでおられず、そしてジェットエンジン用の燃料の供給も十分ではなかった。

技術的に解決不可能な問題ではなかったものの、残された時間はあまりにも少なかった。

量産も配備も補給もうまくいかないまま、5月にはベルリンが陥落したのだった。





とゆうわけで、プラモも完成だ。

え、日の丸がついてるって?

実は、この飛行機、日本とも無縁ではない。

当時の帝国陸軍が、この飛行機をライセンス生産しようと計画していたらしい。

なので、生産して配備された姿を想像してみた。






ハインケルHe162 A‐2 サラマンダーは、最終的に120機ほどが工場から出荷され、800機近くが製造中だったらしい。



▲BMW 003 E エンジン

当時の日本の技術では、このエンジンの量産は難儀しただろうな・・・




▲実は射出座席である。キットでもちゃっかり取り外し可能。



当時最新の技術だったジェットエンジンを量産し、この時代にほぼなかった射出座席をデフォルトで装備。高速に耐えられる木工ボンドを開発し、その翼は家具屋さんで製造

それを敗戦までの5か月間で成し遂げるとは、すごいを通り越して戦慄を覚える。




で、キットの評価だけど。

ぱっと組めていいな、って感じだ。

へんに降り曲がった直線翼、胴体に背負ったエンジン、二枚ある尾翼など、現代ジェット機ではそうそう見られない変物が、すぐに目の前に現れる。


唯一不満があるとすれば、胴体とエンジン覆いに、微妙なズレが起こるところ。だが、着脱可能な点を考慮するとまあ、仕方ないかなと思える。




▲機関砲は量産にあたって、常識的な20ミリ口径のものに切り替えられた。

なお、桜のマークは、ファインモールドの「桜花」のものを使用。





▲エンジンの整備状態にさしかえると、こんな風になる


 
 なんか、カンブリアモンスターみたいだな。
 
 


▲尾翼の下にあるでっぱりは、ほぼまちがいなく「尻もち」をついたとき、垂直尾翼が地面にぶつからないようにするための工夫。
 


▲前に一本だけ車輪の軸がある方式を「前輪式」って言う。この方式は着陸とかの時にのけぞりやすい。
 
かといって、後ろに一本車輪の軸がある「尾輪式」だと、前のめりに倒れやすくなる。世の中うまくいかないなあ。



 
アマゾンでも安売りしているので、これを基に組んでみるのもいいかもしれない。


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