2018年をもって、ラクエンロジックの商品展開と公式戦の開催が終了した。
2年と1ヶ月の命だった。
そう。あまたの企業が挑戦し、栄枯盛衰を繰り返すカードゲーム業界の争いにおいて、また一つ、墓石が立てられたのだ。
同じ会社から展開され、よく似たルールを持つヴァンガードやヴァイスシュヴァルツが堅実なシェアを維持する中、ラクエンロジックはなぜ敗れたのか?
今回はこの考察だ。
●目次
1.敗退の理由
①取り回しがしにくい
②複雑に見えるバトルの処理
③相手がいない
④最大のライバル――自社製品
2.総論
3.ラクエンロジックが残したもの
1.敗退の理由
①取り回しがしにくい
2016年のこと。筆者が、発売されたばかりのラクエンロジックのデッキを回してみてまず思ったのが、「取り回しがしにくい」だった。
カードが大きく、しかもそのカードを広めに置かないといけなかったのだ。
ラクエンロジックのカードサイズは、63ミリ×88ミリ。いわゆるレギュラーサイズだ。当時遊戯王(59ミリ×86ミリ)に慣れていた自分には、少々大きかった。
そして、大きいにもかかわらず、カードをいっぱい並べなければならないのだ。
メインデッキのほかに、ポケカのサイドカードに相当する「門」、MTGのマナに似た「レベルカード」。カードの効果発動のコストとなる「ストック」。
門は、遊戯王で言うところのモンスターカードゾーンと魔法罠ゾーンに、3×2の6枚で並べられるのだが、その上にキャラクターを置いてバトルする。
ラクエンロジックでは、遊戯王のエクシーズモンスターに似たトランスユニオンカードで戦うことがほぼ必須である。
つまり門を含めた4枚ほどカードを重ねたり取り外したりしなければならなかった。
カードの大きさとあいまって、スペースをとる、操作性が良いとは言えないゲームになってしまっていた。
しかし操作性に関しては「慣れ」によって解決できるし、スペースも致命的なものではない。
もう一つ、新規にとっつきにくく見える要素が、あったのだ。
②複雑に見えるバトル処理
より正確に言うなら「デッキから直接召喚できるエクシーズモンスターで戦う」で、遊戯王の12期ぐらいの環境で実装しそうなものだ。個性的ではある。
個性的なのはよかったのだが、効果処理が少々面倒だった。
再び遊戯王で例えるなら、ラクエンロジックのバトルは、
「エクシーズ素材によって攻撃力が変化するエクシーズモンスター」で「相手ターンでも手札から発動できる『突進』および『右手に盾を左手に剣を』でバトルの処理を行う」、
ゲームである。
理解の助けのため、少し架空のバトルを書く。
俺「パワー10000でアタック!」
相手「手札を1枚切ってこちらのパワー+3000」
俺「ならこっちはパワー+5000のカードを手札から発動!」
相手「レベルをタップして1ドロー! ふ・・・ 引きがいいようだ、こちらもパワー+5000のカードを使う!」
俺「なら俺は、ヴァイスシュヴァルツのCXっぽいカードを発動! これでバトルはオーラバトルとなり、パワーは無意味だ!」
相手「かかったな、アホが! 私にもあるんだよ、パラドクスカードが。これでロジックは逆転し、世界は再びパワーが支配する!」
ラクエンロジックのカードの多くは、この「パワー+」の効果が内包されている。頻繁にこれらの処理が起こるのだ。
「手札が尽きるのではないか?」と思う方もおられるだろうが、このゲームのターンごとのドローは2枚である。
一応言っておくと、このバトル、慣れればかなりおもしろい。
確かに初見でのとっつきにくさはある。
だが、これが思考的な駆け引きを生むのだ。
つまり、相手の手札の内容、生き残るべきキャラの取捨選択、こちらが手札消費に耐えられる戦況か否か、これらの推理が可能であり、魅力となっていた。
それに、おそらくラクエンロジックに手を出す人間の多くは、同じ会社が展開していたヴァンガードやヴァイスシュヴァルツのプレイヤーでもあるだろう。
ラクロジのパワー増強はヴァンガードのそれだし、効果発動のコストに必要な「ストック」は、ヴァイスのプレイヤーなら見慣れたものだ。
しかし問題は、ヴァンガードやヴァイスシュヴァルツという優れたカードゲームのシステムを基にしながらも、ラクエンロジックはプレイヤーを取り込めなかったことだ。
③相手がいない
あるエピソードを語ろう。
時は2016年の夏。ラクエンロジックの発売から数か月後。場所は大阪の日本橋。
私はラクエンロジックのショップ大会に参加すべく、この地に降り立った。
日本橋は電気街で、当然、カードゲームショップも非常にたくさんある。
地下鉄から地上に上がり、目的のショップを目指す。
ビルの5階がまるまる店舗になっていて、この辺りでは1、2を争う大きなデュエルスペースを持っている。
対戦相手が、一人しかいなかった。
そのときの私のデッキは、一番初めに発売された500円のスタートデッキを小改良したもので、当然負けたのだが、準優勝ということで景品のカードをもらった記憶がある。
さすがにありがたみのない準優勝だったので、次の週にもう一度、今度は違う店に足を運んだ。
今度も、対戦相手が一人しかいなかった。
実は、この二回とも平日の昼間の大会であり、休日に比べて人が少ないのは納得ができる。
しかし場所は、第2の秋葉原ともいうべき日本橋である。いくらなんでも参加者が二人というのはおかしい。
それも、絶賛売り出し中のTCGが、である。
参考までに言っておくと、ほぼ同じ時間帯の遊戯王の「スタンダードデュエル」(現在のショップデュエル)の参加人数は、どの店でも10人前後であった。
老舗の遊戯王と比べるのはフェアではないかもしれないが、厳然たる事実として、ラクエンロジックはこのような相手と競合していく必要があった。
④最大のライバル――自社製品
有名な話がある。
日本のTCGの4大巨頭は、「萌え」を排しているという話だ。
すなわち、遊戯王、デュエマ、ポケカ、MTGは、(遊戯王は最近怪しくなってきたが)、いわゆる「萌えキャラ」におもねるカードの売り方をしていない。
それは、TCG本来の消費者である小中学生に売ることを考えたら当然だし(この時期は『萌え』はむしろ嫌いだと思う)、また「萌え」ゆえに「ゲームシステムで勝負していない」と遠ざける人も一定数いるのだ。
ラクエンロジックは、発売当初、どっちつかずの戦略をとった。
▲値段はどちらも500円。ポケモンカードが2018年に劇的な成果を上げたように、「500円デッキ」という方法は、決して間違いではなかった。
▲スタートデッキの「フィニッシャー」。筆者の手持ちのカードを撮影
すなわち、女の子ではあるけど「萌え」とは言えないクロエと、明らかにあざといイラストをした「玉姫」、二種類のスタートデッキを販売したのだった。
おそらく、開発販売元のブシロードにも逡巡があったのだと思う。
彼らが謳っていたように、確かにゲームに論理性(運に寄らないプレイング性)はある。
しかし、主要な消費者(そのほとんどは男)に売ると考えたとき、硬派か、萌えか、どちらでいけばいいのか?
商品展開を開始するその時まで、定められなかったに違いない。
答えは結局、市場が出した。
玉姫のほうが、売り上げが良かったのだ。
私自身、ショップでクロエの方が売れ残っているのを見ているし、ネットの情報でも、玉姫の方が人気商品だったという証言がある。
それにその後のブシロードの戦略も、これを裏付けている。
美少女キャラの水着に絞った商品の展開、次のトライアルデッキのメインはメカスーツ美少女と銃を構えた女の子。
販促アニメでも、男キャラがいなくなってしまった。
発売数ヶ月にして、ラクエンロジックの方針は固まった。萌えで行く、と。
かわいい女の子たちに、ヴァンガードとヴァイスシュヴァルツを引き継いだゲームシステム。遊戯王との差別化は十分。これで売れないわけがない。
消費者「ヴァイスシュヴァルツでよくね?」
ラクエンロジックに手を出す人間の多くは、ヴァンガードやヴァイスシュヴァルツのプレイヤーであっただろう。
とゆうよりも、ラクロジのゲームシステムは明らかに、この二つのカードゲームのプレイヤーがとっつきやすいものとして設定されていた。
遊戯王と違った洗練されたシステムを持ち、かわいい女の子たちを扱えるカードゲーム。
すでにブシロード自身が、「ヴァイスシュヴァルツ」という解答を出していたのだ。
少し、当たり前の話をしよう。
人間は、なじみのあるものにとっつきやすい。
ヴァイスシュヴァルツはよく知られている通り、既存の人気作品がカードのテーマになる。
仮にある人が、新しくカードゲームをはじめようと思ったとしよう。
目の前にかわいらしいがよくわからない女の子のゲームと、見知っていてしかもかわいい女の子のゲーム、二つの選択肢があったとき、多くの人は後者を選ぶのではないだろうか?
2.総論
ラクエンロジックは、カードゲームとして独自の部分を持ちながらも、消費者に選ばれるまでの理由は獲得できず、終始不首尾であった。
ゲームシステムにしても、美少女を売りにするにしても、すでに飽和状態であったTCG業界で居場所を占めるまでには至らず、あまつさえ自社製品であるヴァイスシュヴァルツと競合し、2年と1か月で命脈が尽きた。
また、詳しくは触れなかったが、発売と同時に展開されたアニメの、好評とは言い難い評判も、追い打ちをかけただろう(アニメの出来とカードゲームとしての出来は違うのだが・・・)。
ラクエンロジックは結局、業界王者遊戯王を意識してアニメとのタイアップを実行したもののうまくいかず、萌え路線に舵を切るもヴァイスシュヴァルツと個性がだだかぶりし、どちらにも敗れ去った、と言える。
ブシロードがラクエンロジックを展開した理由は、新たな自社ブランドを育てつつ、加齢とともに引退してしまうであろうヴァンガード、ヴァイスシュヴァルツのプレイヤーを、つなぎとめたい、であったはずだ。
しかし、ヴァイスシュヴァルツが、かなりの程度この役割をになってしまい(特に2018年は、非常に売り上げを伸ばした)、もはや生みの親からしても、資源を割く対象ではなくなった。
カードゲームとしてのラクエンロジックは、いくつかの魅力的な面を持ちながらも、プレイヤーを増やすことができず、淘汰される運命と相成った。
3.ラクエンロジックが残したもの
2年と1か月という、高校生活に満たない年度で市場から消え去りつつあるラクエンロジック。
▲東北地方の某所で、筆者撮影
このコンテンツが残したのは、今やレジの前の特売コーナーで束になっている、スリーブだけだろうか?
それは違う、とは、断言できる。
ヴァイスシュヴァルツで新しいテーマが増えたよ、ヤッタネ!
「ひなろじ」はラクエンロジックの販促アニメ第3弾で、百合ゆりしいことで評価を勝ち得た作品だが、しれっとヴァイスシュヴァルツにテーマとして参入した。
筆者がヴァイスシュヴァルツのショップ大会に参加してこのテーマの感想を聞いたところ、おおむね好評で、また、各地の大会で良い成績もおさめている。
アプリゲームでもラクロジのカードが使われたものがあり、「コンテンツ」としてのラクエンロジックは、今しばらく愛されるだろう。
●たぷろじ 公式サイト
http://hinalogic.com/taplogic/
最後に、日本のTCG界に残したものを書く。
それは、「教訓」である。
ブシロードは、すでにヴァンガード、ヴァイスシュヴァルツなどで、TCGメーカーとしての実績を確かにしていた。
そのメーカーが、鳴り物入りで展開しようとしたのが、「ラクエンロジック」であった。
インタビューに答え、コラボアニメを(なんと発売とほぼ同時に)展開し、取引のあるショップの店員には「ラクロジを教える」旨を記したバッジをつけるよう、強く要請した。
ラクエンロジックは、実績のある企業が、かなりの資源を投入してなお、新規の参入はむずかしいという事実を示した。
ブシロードとしては、望まない結果に終わってしまったかもしれないが、「教訓を残した」面においては、日本のTCG業界に、多大な貢献をしたと思う。
カードゲームのプレイヤーたちは、そのチャレンジ精神を、忘れないことだろう。
最後に個人的な思い出を少し。
筆者がこのラクエンロジックに出会ったのは2016年のこと。
当時就活中だったのだが、就活サイトでブシロードが「ラクエンロジックのディレクター」を募集しているのを見つけ、興味を持ったのだった。
500円のスタートデッキを買って、参加者二人の大会に出たり一人の大会に出て優勝したりと、今となっては思い出深い。
結局、東北の田舎で働くことが決まり、対戦相手がいないといういかんともしがたい問題が起きてやめてしまった。
が、実はこのラクロジをきっかけに「ヴァイスシュヴァルツ」をはじめたりと、自分の個人史の中では、確かに足跡を残している。
※ ※ ※
現在、ネット上にてラクロジにむけられた低評価の多くは、一言でいえば「アニメは面白くない」である。
カードゲームとしてのラクロジを習熟した人間からは、おおむねよい評価であった。
コンテンツが終わることが決まった時にも、感謝や残念がる言葉が、確かにあがったのだった。
註)
画像は基本的に、ラクエンロジックの公式サイト http://luck-and-logic.com/ より引用した(ヴァイスシュヴァルツのカードだけはヴァイスシュヴァルツ公式サイトより引用)。
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