飛燕って戦闘機は、各プラモデル会社がキット化していて、とくに飛燕Ⅰ型はサイズから価格帯まで一通りそろっている。
その中で、2017年に発売されたタミヤの飛燕が一番新しいもので、パーツに銀メッキを施した特別版も販売された。
一方、マニアックなキットを発売することで定評のあるファインモールドも、飛燕のプラモデルを出している。
その二つを作り比べてみた。
★作り比べ開始
まず、箱を比べる。
箱のサイズの方は、ファインモールドの方がコンパクトだ。タミヤの方が大きいのは、シリーズ化している「ウォーバードコレクション」のサイズと合わせた形だと思う。
じっさい、中身を比べてみると、パーツ数とかに大きな差はない。タミヤの方は、銀色がまぶしーぜ。
コクピットの風防のパーツ。どちらも、しっかりと窓枠までディテールが刻まれている。さすがのタミヤも、窓のパーツまで銀色にすることはしなかったようだ。
プロペラの回転軸の部分は、タミヤはポリキャップで接続、ファインの方はプラパーツで接着するタイプだ。タミヤの方はポリキャップが2つあるので、余った方はファインの方に使える。
説明書を比べる。
タミヤは塗装図の機体イラストがキットと同じ大きさ、なので、デカールを貼るときとかに大いに参考になる。
ファインモールドの方は、コンパクトだが必要な情報はそろっている。また、せまくなりがちな作業机では、コンパクトなのは見過ごせない利点だ。
付属デカールはこんな感じ。上がファインで下がタミヤ。
タミヤもファインも、部隊章が複数入っている。「好きなものを選んでね」というわけだ。
ただ、どちらのキットも日の丸や計器のデカールは一機分だけではある。まあ、このあたりは普通
▲タミヤの強みその①
銀ピカ使用の特別版には、本来は別売りの迷彩デカール(単体売りだと309円)が、付属しているのだ。
タミヤ 1/72 ディテールアップパーツ (飛行機モデル用) No.83 川崎 三式戦闘機
飛燕I型丁 迷彩デカール プラモデル用パーツ 12683
完成した銀ピカの機体に、そのままデカールを貼れば、すぐに実機の塗装が再現できるってわけだ。
今回はこれをもう一つ買って、ファインモールドの完成品にもお手軽迷彩を施したいと思う。
★組み立て
さっそく組み立てていく。
ファインモールドもタミヤも、特にストレスなく組みあがってゆく。
コクピットの比較。
▲ファインモールドの方はシンプルに見えるのは、一部計器類を胴体に付けるためだ。写真に写っていないパーツがあったりする。
写真では撮り損ねてしまったのだけど、実はファインモールドの方は、座席を取り付けたとき、機体の中心よりやや右に寄ってしまう。
これには、凝った修正は必要なく、座席を位置合わせ用のでっぱりと穴を無視して、左に取り付ければ、見た目では問題なくなる。風防をかぶせれば、どーせほとんど見えなくなるしな。
まあ、ネットだと、ちゃんと測ってミリ単位で修正している人もいるのだけど。
ファインの強みその①
このキットは、エンジンのパーツがしっかり再現されていて、しかもエンジンを見せて組むことができる。エンジン整備中の情景などを組めるってわけだ。
今回は作り比べなので、タミヤの方に合わせて、エンジンカバーを取り付けた状態で作成する。
▲エンジンカバー。上がファインで下がタミヤ。
どちらもきっちりした造形で、きれいなパーツだ。発売の新しいタミヤの方が、機関銃まわりとかの細かいところまで再現されている。
胴体を組んで比べる。作りかけで なおわかる整った造形に、ワクワクするぞ。
▲細長い主翼は、空戦時の旋回上昇率を重視した結果らしい
ディテールは、どちらのメーカーもしっかりと作りこみがされている。光っている分、タミヤの方が写真写りはいいが、甲乙はつけがたい。
先に書いておくと、胴体と主翼は、迷彩デカールを貼り終わったあとに接着した方がいい。自由に取り外しができないと、迷彩デカールを貼るとき、かなり苦労することになる(1敗)。
▲ファインのプロペラの中心に、タミヤのポリキャップを仕込む。
そのままだと長くてスピナー(上のとんがり部品)がちゃんと取り付けられないので、半分に輪切りにし、さらにその角をとんがりの形に合わせて斜めに切り落とす。
下のタミヤの方は尾翼だけ塗装して、上のファインの方は全体を銀(タミヤのアクリル塗料のクロームシルバー)で塗り、その上で尾翼を赤く塗装した。
現存している実機の写真を見てみると、ややくすんだ銀色をしているので、ファインに施した塗装の方が、実物に近いと思われる。
(ただ、実機も工場から出荷直後は、タミヤのように銀ピカだったらしい)
タミヤについて追記しておくと、この素晴らしい銀メッキは、アクリル塗料をガンコに弾いてしまう。色がのらないのだ。
塗るならエナメルかラッカー塗料を、オススメする。
▲迷彩デカールを貼ってゆく。まずはタミヤ。
▲そしてファインモールドにも貼る
このデカールが実は曲者で、極薄なおかげでちゃんとシワなく貼れたときの仕上がりはバツグンにきれいなのだが、いかんせん破れやすい。
マークセッター(デカールを柔らかくする薬品)を使うのも、慎重にやった方がいい。付属のハケで塗っていると、簡単に破れてしまった(2敗)。
ファインモールドの方だけど、丙型は機体が短いので、丁型に合わせて作られたデカールだとサイズがあわない。少しだけ、カットする必要がある。
特にお腹のエアインテーク部分は数ミリずれてしまうので、バッサリ切って、改めて貼り付ける。
機関砲が、真鍮パーツで再現されている。
プラスチックだとどうしても のっぺりした感じになってしまうので、こういうサービスはありがたい。普通金属のパーツは、ディテールアップパーツの扱いで別売りとかになるのだけど、あらかじめ付属しているのはかなりいい感じだ。
プラではなく金属なので、接着には瞬間接着剤を別途用意する必要がある。まあ、プラスチック用接着剤でもつかないことはないのだが。
デカールが貼れたら、無線機の張線を張る。
ここで、実機の説明を少しする。
1940年に陸軍は、2種類の飛行機の試作を、当時の川崎航空機に指示した。
軽戦闘機であるキ61
(武装はいまいちだけど軽量で扱いやすく、敵地への侵攻にも使える)
重戦闘機であるキ60
(航続距離は短いけど武装が強く、やってくる敵機を迎撃する役目をもつ)
陸軍はキ61に絞って開発することにして、これがのちに三式戦闘機飛燕となった。
この飛行機の特徴は、液冷式エンジンを搭載したおかげで、機首の空気抵抗を減らしたことだ。
同時代の零戦や隼は空冷式なのだけど、エンジンを空気で直接冷やすため、大き目の空気の取り入れ口が必要で、空気抵抗の面では不利になる。
ちなみにエンジンは、ドイツのダイムラー・ベンツ社をライセンス生産したもの。
ファインがキット化した一型丙は、機関砲もドイツ製だから、「だいたいドイツ製」と、言えなくもない。あだ名も「和製メッサ―」だし(メッサーはドイツの飛行機会社ないし戦闘機の名前)。
それで、無事に二機とも完成した。
★写真で比べる
●ファインモールド1/72 飛燕Ⅰ型丙――総評
ファインの1/72飛燕の初版は、2002年のことだ。iPodの初期型が登場したのが2001年だから、それなりに年季の入ったキットとなる。
発売当初は、かなりの衝撃を与えたキットだったと思う。
1/72サイズのキットは、主流の1/48サイズキットの「簡易版」といった側面が強く、いろんなパーツがオミットされ、「良くも悪くも手軽」と言えた。
そんな中、コクピットの機器をできる限り再現し、組み方によっては見えなくなるエンジンもしっかり搭載し、機関砲は見栄えの良い金属パーツにした。この創意工夫は、まさに21世紀の新しいキットだったのだろう。
組んだ後のプロポーションも良好で、一見繊細だが強そうに見える。
エンジンの他、外付け式の燃料タンクが付属するのはタミヤ製に勝っている部分で、その燃料タンクにも手抜かりはない。注意書きのシールまで付属しているのには恐れ入った。
余談だけど、この飛燕のキットの主翼は、飛燕より先に発売された「五式戦」という戦闘機のキットの流用だったりする(五式戦は三式戦のエンジン換装型)。
この流用のおかげで、五式戦のキットについてくる飛行機攻撃用の爆弾がオマケでついてくる。燃料タンクの代わりに取り付けてもいいかもしれない。
完成度が高いのに、すぐ完成品をおがめる、という点でも、非常に優れている。
組み立てにむずかしい部分もなく、パーツとパーツも素直に合うので、すき間埋めやヤスリがけの必要がほとんどない。
すでに発売から20年たつが、最近発売されたキットともそん色はなく、今でも店舗や通販で、定番商品として売られ続けているのも、納得の出来だ。
●タミヤ1/72 飛燕Ⅰ型丁――総評
タミヤの飛燕は、1/72サイズの飛燕プラモデルの決定版ともいうべき出来だ。
繊細なディテールと組みやすさを併せ持っており、一部は接着剤をつけなくてもピタリと取り付けられる。
コクピット周りの再現は素晴らしいの一言で、普通ならオミットされる装置も手抜かりなく再現されている。
銀メッキ仕様というのも、ミリタリーモデルにはあまり見られない試みで、付属のデカールを貼り付ければ、きわめて簡単にかっこいい飛燕が出来上がる。
ただ、この銀メッキのおかげで、「組みやすいけど組みにくい」といった奇妙な現象が起こっている。
接着する面の銀メッキを、カッターでこそげ落とさなければ取り付けられず、その手間がやはり気になった。
パーツに、のりしろとなるでっぱりをもうけたりと、心遣いはしてくれているのだが、小さいパーツの多いコクピット周りは手こずった。
銀メッキと専用の迷彩デカールのおかげで、だれが組んでもそれなりの完成度を出せるキットになっているけど、塗料とエアーブラシを持っているモデラーなら、銀メッキが施されていない普通の飛燕のキットの方が、組みやすいと思う。
※ ※ ※
タミヤの飛燕は、先に発売されたファインモールドのキットを、強く意識していると思う。
パーツやデカールの分け方なんかとくに顕著で、おおまかな構成はかなり似通っている。
ファイン → タミヤ と順に作れば、20年間の技術の進展が垣間見えるし、ハセガワの飛燕Ⅰ型乙(1970年代発売開始の古参)も組めば、日本のプラモデル技術の向上が、目に見えてわかることだろう。
そういった意味では、単なるプラモの組みたて以上に、教育的な機会を得られるキットだと、言えるかもしれない。
タミヤ 1/72 ウォーバードコレクション No.89 日本陸軍 川崎 三式戦闘機 飛燕 1型丁 プラモデル 60789
―――――――――――――――――――――――――――
0 件のコメント:
コメントを投稿