●学級文庫
小学生ころ、口を両手の指で「いー」と左右に開かせて、「学級文庫」と言わせることが一瞬流行った。これのトリックは、この状態で「学級文庫」と言うと「学級う○こ」と発音してしまって、言った相手を辱めることができるというものだった。
俺は他の人がこのくだらない仕打ちを受けているのを目撃して、あらかじめいーとやって学級文庫と言う練習をして、難を逃れた。
●聖野六次官
聖野六次官という人物がいる。正確には人物ではなく、概念の擬人化だ。クリスマス、恋人がいちゃつく日、とくに夜の9時から3時にかけての6時間は、全国でおせっくすが営まれる時間帯として、一部のものに嘲笑をされ、畏怖され、ついに官僚っぽい擬人化がなされることになった。
なお、初めて俺がTRPGをやったとき、隣の知人の操作キャラの名が「聖野六次官」だった。
●リンゴチューハイ
「三幸」と会社が出している「リンゴチューハイ」が大好きである。こいつはリンゴ果汁が全体の50パーセント使われていて、ビタミンを補うために果実酒を夜と朝に飲んでいる俺にとって水であった。大阪に住んでいた時、近くの100均ショップ「フレッツ」に売っていて、近所ではそこにしか売っていなかったため、しばしば買い占めたものだ。心当たりがある人、すまん。
しかしある時、フレッツからリンゴチューハイがなくなった。
ああ、あのリンゴチューハイが飲みたい。「氷結」とか「ほろ酔い」も悪くはないのだが、あのアルコールの入ったリンゴジュースがやっぱりマイフェイバリットなのだ。
そんな、アルコールが切れかかったある日。
リンゴチューハイと再会した。
場所は上野。つまり関東に引っ越してから見つけたのだ。
100円ローソンのアルコールコーナーに、鎮座していた。
若干パッケージは変わってしまっているものの、あのなつかしの缶チューハイに違いない。
100円ローソンは業者に、「全国のうちの店で扱うから格安で納入してくれ」と頼むことが多々あるらしい。俺のリンゴもその対象になって、他の店に供給がゆき届かなくなったのかもしれない。
とにかく、俺は新たなアルコール補給場所を確保したわけだ。
もし上野の100円ローソンで、果汁50パーセントのリンゴチューハイ「極搾り」が売り切れていたら、たぶん俺の犯行である。
●徒歩で運賃を浮かす
近い距離を徒歩で歩いて電車賃やタクシー代を浮かした経験は、誰にでもあるだろう。自分は関西に住んでいたころ、よく歩いた。特に大阪の地下鉄は安くないので、ちょっとした距離なら徒歩を選択した。
例えば堺筋本町駅から日本橋までは2キロぐらいだし、日本橋から梅田なら4キロ強だ。
一番歩いたのは、神戸空港近くの京コンピュータ前駅→神戸三宮駅で、だいたい6キロだ。6キロぐらいだと、歩くのにちょっと後悔する距離になってくる。
●東北とたこ焼き
東北で暮らしていて、前は大阪に住んでいたと言うと、だいたい「大阪の人はたこ焼き(お好み焼き)をおかずにご飯が食べられるのか?」と聞かれる。結論を言えば、私は食べられる。ただし、積極的に食べたいとは思わない。
たこ焼き(主成分小麦粉)とご飯なんて、でんぷんにでんぷんを組み合わせる行為だ。追いがつおじゃあるまいし、最優先の選択肢にはなりえない。
で、東北のたこ焼きだが、味は悪くなく、むしろおいしい。
さすがに大阪みたいに、タバコ屋感覚で店が点在しているわけではないが、フードコートとかで食べてみると、満足して小腹を満たせる。
だが、おいしいと思うのも、ある意味ではあたりまえなのだ。
「オタフクソース」が、使われているのだ。
オタフクソースは西日本にしかないイメージだったのだが、いいものは広がるのだろう。
●おいしい水
人生で飲んだ一番おいしい水は、屋久島の縄文杉近くで飲んだ湧き水だった。計画は一泊二日。一日目は山小屋に泊まって、二日目に縄文杉をおがむ。観光バスですぐそこまで近づく有名なルートではなく、裏から山道を歩くルートだ。
当時、今よりも輪をかけて貧乏だった。
装備も食料も、デイパックに入る最低限で満足し、港から奥地へと進んだ。特に食料は少なく、朝も昼も夜も晩酌のつまみみたいな食事で済ませた。
二日目の行程が特にきつくて、大したことのない山道が空腹で巨大なものに見えた。
苔で覆われた、数百年は乾いたことがないであろう道を、ゆっくりと登っていく。鹿児島港近くのファミマで買ったパウンドケーキを一つまみずつ食べるたび、背中の多くはない荷物がにぶくうごめく。
重くてかさばって最悪だったのが、念のためと持ってきたマグライトとシースナイフだった。それぞれ撲殺と切腹に使えそうなものだ。持ち物の中では相対的に高級品であったが、山小屋に寄付という名の放擲をしてこようかとよっぽど思った。
昔のトロッコ跡を通り、いくつかの巨木を過ぎると、少し空が見える道に出た。看板で縄文杉まで1キロを切ったことを知る。
その水飲み場は、誰にでも利用できる位置にあった。
俺みたいなハイカー向けにこしらえられたもので、とくに変哲もない。遠目からでもきれいな水だとわかったが、口に含んで驚いた。
世の中に、こんなにうまい水があるのかと、思い知った。
味わいがあるのに澄んでいて、少し甘みがあるのに、いくらでも飲める。そんな、水以上の水だった。
丸太の柵でしっかりと阻まれて、近くで見ることのかなわない縄文杉からの、帰り道。
もう一度水飲み場に寄った。
私はまず、ちびちびと飲んでいたボトル缶コーヒーを飲み切った。それから、ほとんど飲んでいなかった500ミリリットルのお茶を飲みほした。
そして、本当にまずいとき(遭難や流血の事故)以外には封を切らないミネラルウォーターを、全部捨てた。
空になった容器すべてに、その水をくんだ。
1.5キロほどの荷物だったが、特に重いとは思わなかった。
あ、二番目に好きな水がこれ。兵庫のごく一部でしか販売されていないぞ。
おしまい
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