秋の夜長に不思議な話。
ちょうど去年の今日のことだ。
その日、昼すぎに大阪の日本橋に向かった。大阪日本橋は、関西で最大の電気街だ。
そこには模型屋のボークスがあって、半年に一度の割合で広く参加者を募り、コンテストを開催する。
私は映画「硫黄島からの手紙」の冒頭、栗林中将が乗っていた輸送機をプラモデルで再現したもの、ボークスのレジに提出した。
模型制作歴は、ブランクをはさむものの、10年近くあった。
コンテストへの受付が終わると、向かいにあるオタ系古本屋のらしんばんに足を向ける。他にもいろいろ寄るつもりだった。
だが、直前まで模型の仕上げに集中していたせいで、朝からほとんど何も食べていなかった。外食するのももったいないので、早めに帰ろうと思った。
当時、私の住んでいた家には風呂がなかった。
どうやって日々身を清めていたかというと、銭湯と、ネットカフェのシャワーであった。
日本橋にもよく行くネットカフェがあり、その日もそこに寄った。
いつものようにシャワー室を借りる。手短に済ませ、パソコンの席に戻る。
隣の席の人が、「艦これ」を立ち上げたまま熟睡してるのが、印象的だった。
普段は、ネカフェは一時間以上利用しない。料金がかかるからだ。
ところがその日は、なぜかわからないのだが、10分だけ延長する事にした。
パソコンで何をしていたのかは、覚えていない。前日までなら、製作している輸送機の資料を集めているはずだが、その目標はすでに失われている。
遊戯王の対戦動画を見ていたのかもしれないし、You tubeの動画をMP3ファイルに変換してくれる、限りなくグレーゾーンに近いサイトにアクセスしていたのかもしれない。
とにかく、乗るはずの電車に一本遅れた。
ネカフェ近くの階段から地下に潜ったら、御堂筋線のなんば駅はすぐだ。この地下鉄は、阪神タイガースのパレードで有名な御堂筋のすぐ真下を通っており、本町駅、梅田駅などの大阪の中心部をつらぬいて、大阪万博の記念公園の方面へと伸びている。
自分の乗った電車が隣の心斎橋(しんさいばし)駅に到着した。
奇妙なことに、しばらくドアがあかなかった。
御堂筋は大阪の大動脈で、東京の環状線と同じく数分単位で次の列車が来る。何かあったとしか考えられない。
間もなくアナウンスが流れてくる。
『ご乗車ありがとうございます。ただいま、本町駅で人身事故発生のため、救出作業完了まで、しばらくお待ち願います・・・』
ほとんど同じアナウンスが二十回ほど繰り返されたとき、唐突にドアが開いた。
乗換えを案内する臨時のアナウンスが、響き始めた。
※ ※ ※
御堂筋線ではまれにだが、こうゆうことが起こる。今回も、女子高生が落ちたのだった。
気づいておられると思うが、心斎橋駅の隣が本町駅である。
これが自分にとって三回目の、乗るはずの電車が事故を起こす体験だった。
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