2018年3月28日水曜日

出張先でもプラモ 第2回 速吸 (アオシマ 1/700)


 まだ私が関西に住んでいたころのことだ。
 
 ミリタリーにさほど関心のなかった知り合いが、やたら昔の艦船に詳しくなり始めた。
 



 



 大和とか赤城とかの有名どころの大型艦から、島風や春雨といった小型艦、流星や晴嵐といった艦載機、はては九三式聴音器なんていう、よほどのマニアかモデラーしか知らない単語まで飛び出した。私は同好の徒ができたと喜んだ。
 
 

 ところが、そいつはちょっと偏っていたのだ。
 
 なぜかやたら、特定の船にだけ詳しかった。具体的に言うと榛名(はるな)と天龍と雷と電だ。戦艦榛名はともかくとして、天龍はメジャーとはいえない船だし、雷と雷にいたっては「マイナー」としてさしつかえない量産型の船だ。
 
 ちょうどその頃私は、京都にある愛宕(あたご)山に登ってきたところだった。重巡洋艦(戦艦よりひと回り小さな軍艦)に愛宕というのがあるのだが、その名の由来になった山だ。そのことで話を向けると知り合いは一言言った。
 
「愛宕はパツ金で巨乳でぱんぱかぱーんなんでキライです」
 
 それが、私が『艦隊これくしょん』なるものを具体的に知った馴れ初めだった。
 
 ※ ※ ※

『艦隊これ』が人々にもたらしたものはたくさんあるけれど、そのうち一つが「マイナーな船にも目を向けさせた」だろう。
 
 雷や雷もそうだし、鹿島や明石といった後方支援艦、龍驤(りゅうじょう)みたいな商船改造の空母が、こんなにネット上で広く話題になることはなかったに違いない。ようは船の艦歴に関係なく、擬人化したときのイラストに人気がでたのだ。
 
 個人的には、軍艦を女体化させるのは弱冠抵抗があるのだが、まあ、このコンテンツで、日本人のミリタリーIQ的なものが向上するなら、それはそれでいいかなと思っていたりもする。
 
 それに、明確な恩恵もあった。今回記事でとりあげるのがまさにそれだ。
 

 


 プラモデルコーナーの一画に、「でででん」と並ぶまで、私はこの船のことを知らなかった。
 
「はやすい」と読むそうだ。船種は給油艦で、戦闘艦ではない。ははあん、どうりで手持ちの「日本海軍艦隊総覧」にものっていない訳だ。
 
 一目見たときから確信していた。萌え遺伝子に欠いた俺でもわかる。「この子は可愛い」と。
 
 今回は近所のおもちゃ屋で売れ残っていたこの子を組み立てたいと思う。
 
「出張先でもプラモ」第二回。給油艦速吸、いざおしてまいる!
 
 ※ ※ ※
 
 一応、この企画の趣旨を説明しておこうか。

・ニッパー一つで組めること
・色をあまり塗らないでも見栄えがすること
・貴重な休日の余暇で完成まで持っていけること

 
 
 では、製作開始だ。 


 いやあ、しかし、船のプラモデルなんて10年ぶりぐらいだな。飛行機、戦車はちょくちょく作ってたんだけど。

 速吸のキットはアオシマ社製で、「ウォーターラインシリーズ」という、模型メーカー各社が合同で企画している、実物の1/700サイズの模型だ。

 昔々、子どもながらに「アオシマのキットはモサっとしてるな」と感じたものだ。タミヤやハセガワと比べて、部品にシャープさが足りなかったのだ。



 ところが、 これがなかなか。

 


 
 画像は艦首の部分なんだけど、ちゃんと船体を溶接したときの溶接跡(すじ状のヤツ)まで再現されている。
 

 
 
 ほい、で、艦橋ね。
 


 
 飛行作業板の裏側。

 
 
 このキット、なんとディテールアップパーツまでついている。飛行機を吊るクレーンと、飛行機を射出するカタパルトがエッチングパーツになっていて、プラスチックの既存部品と差し替えることが可能だ。
 

 

 上がカタパルト、下二本がクレーン
 
 
 厚さ0.1ミリ以下の金属から、折り曲げて作成する。ピンセットを使ってさえ、ものすごおおおおおおく作りにくいし、下手をするとクレーンの先っぽが「ぷつ」と切れる。

 切れたら悲惨である。瞬間接着剤でつけようにも、瞬着のしずくのほうがクレーンより大きいうえ、接着面積が小さすぎてそもそもつかない(泣)。
 


 艦橋の窓がしっかりクリアパーツになっているので、マスキングを貼っている
 
 
 まあ、トラブルはあったものの、とにかく素組みは終わった。
 
 塗装の便宜上、クレーン、カタパルト、飛行作業板、カッター、内火艇、主砲と対空機銃はまだとりつけていない。
 
 組みやすさとしては、かなりくみやすい部類だ。ストレスはほぼなく、パーツ点数も程よい。
 
 ただ、甲板中央部と船体に、微妙な隙間が開いてしまうのが気になるところか。
 
 
 
 さて、船体の制作が終わったら、細かい部品も含めて色塗りだ。
 
 
 
 と、その前に・・・
 

「紫雲」の機体。左下は比較のための綿棒



 このキットには、艦載機として、実際に搭載された「瑞雲」の他に、「紫雲」が付属している。

 紫雲という飛行機を、わからない人もいるだろう。
 
 生産数は15機(瑞雲は約220機)。現在の技術でもむずかしい二重反転プロペラを搭載し、いざとなったら離着水に使う浮き舟を投棄して敵から逃げる、いわゆる変物飛行機である。
 
 この飛行機が同封されているだけでも感動ものだが、このキットの紫雲はそれだけではない。

飛行機の裏側


 わかりにくいだろうが、なんと両翼の浮き舟(投棄せずに空気圧縮で小さくできる補助の浮き舟)を折りたたんだ機体も、しっかり再現してあるのだ。
 
 もう、きゃーって感じだ。
 
 おわかりいただけるだろうか? つまり、普通キット化しないようなマイナーな飛行機の、浮き舟投棄状態も作れるというこの心意気を! 違う意味での罪の重さを!

 てゆうか、こんなところで凝り性を発揮して、誰がわかるねん! 俺はわかるけどさ!





 で、色を塗って日の丸のデカール(水転写式のシール)を貼ってみた。




 実は今回、デカールをやわらかくする糊であるマークセッターを、人生で初めて使ってみた。このキット、デカールは貼りやすいとはいえないので、組み立てる人はぜひ使おう。超便利だよ、マークセッター。



 飛行機はこんな感じになる。このキットにはエッチングパーツとして、プロペラと運搬台車が付属している。


運搬台車。雑なのはかんべん

 もとはぺったんこになってパーツ化されているこの運搬台車を、ピンセットで折り曲げて組みあげるのは控えめに言って困難な作業だった。

 ああ、ちなみにだけど、この運搬台車、瑞雲のような浮き舟が二つある機体専用で、紫雲は載せられないから注意が必要。





 さて、内火艇(搭載ボート)、対空機銃、飛行作業板に色を塗って、飛行機をのっけたら、完成だ。
 
 
 
「出張先」ということを鑑みて、塗装を一部簡略化している。対空機銃の床の部分とか・・・

 
 
 
 飛行作業盤は、説明書で指定された色よりあえて薄めに塗っている。ほら、陽があたり続けると、塗装が劣化すると思ってさ。

 
 
 
 艦橋のメインマストから後部の煙突まで伸びている張り線は、適当に張っている。時代考証にもとづいてつけているわけではないので注意。

 

 
 この速吸は、資料が十分ではなく、写真も一枚しか残っていないので、想像力を膨らませて適当に自由に組めばいいと思うぞ。

 

では、キットの総評を。
 
 ひと昔前のアオシマのキットに比べて、考えられないほど組みやすく、艦船模型初心者にもおススメできる。
 
 一部、船体の組み立てにすき間やズレができる部分もあるが、簡単なパテ埋めやペーパー掛けで十分対処できる。
 
 
 一つだけ不満を上げるとすれば、箱絵が船じゃないことだろうか。
  
 模型を作っている人間にとって、外箱に書かれた絵や作例は貴重な資料だ。
 
「ちょっとここの部分どうなってるのかな~」と知りたくなった時、箱のパッケージを見るのは、モデラ―なら誰しも経験があるだろう。

 俺も、「ここはどうやって塗装しようか」と、箱を見たわけですよ。
 
 
 


 
 
 
 うん。まったく関係のない女の子が描かれているんだ。
 
 
 
 この女の子、今ではネットの世界にまではびこって、「速吸 模型 作例」で検索してもこのイラストがでる始末だが、私は元気です。
 
 
 とにかく、気が向いたら、こうゆう「補助艦艇」も作ってみるといいと思うぞ。「艦これ」はコンテンツとして今しばらく続くだろうけど、これがひと段落下したら、こうゆう模型は手に入りにくくなると思うから。
 






出張先でもプラモ 第3回はこちらから

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